ここ何年か忙しく働き通しで、久しぶりに取れた1ヶ月間の夏休み。
NYで同棲しているボーイフレンドが、「親友の結婚式があるから一緒にシンガポールへ行こうよ」と誘ってきた。
シンガポールは彼の故郷。ということは、彼のご両親にも会えるのかな?
初めてのシンガポール旅行にドキドキワクワク…と思いきや、到着するなり事態は急転。
ABC(American-born Chinese / 中国系アメリカ人)の自分と同じような普通の家庭で育ったのだろうと思っていたボーイフレンドが、実はアジアでも有数の大富豪だということが発覚!
彼の友人たちは平気で高額の衣類やアクセサリーを買い求め、何億もするコンドミニアムに住み、週末にはプライベートジェットで「ママが所有するインド洋の島」に遊びに行ってしまうようなマルチビリオネア。
おまけに彼の家族は、会う前から私のことを完全に敵対視。
彼のお金だけが目当ての女(gold digger)だと決めつけて、私を追い払おうとする。
私は彼が大富豪ってことすら知らなかったのに!
…というのが新進気鋭のシンガポール人作家、Kevin Kwan(ケヴィン・クワン)の処女作Crazy Rich Asians(クレイジー・リッチ・アジアンズ)の簡単なあらすじである。
いかにもchick lit、な筋書きでしょう?
あたふたする主人公Rachel(レイチェル)の様子が目に浮かぶようでしょう?
もうページを繰る手が止まらなくて、「おもしろい…おもしろいわ〜…」とつぶやきながら読み進めた。
2014年出版なので新しい本ではないのだが、改めて本日ご紹介した理由は…
Kindle版が122円になっているから!
ハードカバーは3,000円ちょい、ペーパーバックでも1,800円ちょいなのでit's a bargain!
映画化も決定している作品、しかも3部作の1作目。ぜひこの機会にどうぞ。
あらすじは上に書いた通りなのだが、この作品の面白さはゴシップガールmeets jet-setterといった世界でも有数のお金持ちの生活がリアルに描かれていること。
シンガポール、香港、上海、マカオ、パリなどなどひょいひょいと移動するような大富豪たちが、ほんの数セントにムキになる。
そして周りの人間に、「あんなにお金持ちなのにcheap(ケチ)なんだから」と呆れられる。
人間くさい描写が多く、そのアイロニーがある意味快感。
どんなprestigiousなレストランさえ顔パスで入れるような中国系シンガポール人のマダムが、「あのショッピングモールに入ってる屋台のrojak(マレーシア風のミックスサラダ)は何より美味しいんだから!」と力説したりして。
この辺りは、食にこだわる中国系らしいエピソードかもしれない。
お金持ち特有のclosed circleや身内にしか通用しないような冗談、「彼は私のいとこだから」「彼女は私の叔母だから」みたいな台詞が飛び交う様は、まさにプルーストの『失われた時を求めて』。

失われた時を求めて(1)――スワン家のほうへI (岩波文庫)
- 作者: プルースト,吉川一義
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19世紀末〜20世紀初頭のゲルマント公爵夫人のサロンとなんら変わりがないのだ。
また、おそらく世界中で最もモダンな都市(国、社会)に暮らしているにもかかわらず、母親の頭にあるのは娘がお金持ちと結婚できるかどうか、だけ。
まるで『高慢と偏見』…。

- 作者: ジェイン・オースティン,阿部知二
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太古の昔から全く進歩がない!という事実が面白おかしく書かれている。
ドラマ『ダウントン・アビー』が好きな方にもおすすめ。
アジア版ダウントン・アビーだといえるだろう。
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シンガポールを舞台にした話というだけあって、Singlish(シンガポール英語)の説明が随所に見られたり、登場人物たちが"What a nonsense lah"みたいな話し方をしているのがユニーク。
それにしても中国系の大富豪というのは世界中どこを探しても類を見ないほど富を蓄えているのだなあとこれを読んで改めて実感した。
この処女作 Crazy Rich Asiansが大ヒットし、作者のKevin KwanはChina Rich Girlfriend、Rich People Problemsという作品も出版している。
どちらも同じ一族を主人公とした物語。
面白さや質は全然落ちず、むしろパワーを増している感さえある。
ちなみにKwan曰く「完全にフィクションと言えるエピソードはないくらい。自分のシンガポールでの生活を元にして描いた作品」とのこと。
3作目のRich People Problemsには、魚を整形する(!)というエピソードがあるのだが、それすら本当にあった話だそうで。
Kwan自身もシンガポール出身のおぼっちゃま。今はNYで「普通の」暮らしをしているものの、シンガポールに帰ると空港でメイドさんが4人待っているような家庭出身だとか。
他の国からはかけ離れたようなシンガポールにおける富の集中に疑問を覚え、書き上げた小説だということだ。
映画化についても書きたかったのですが、長くなってしまったのでまた後日。
みなさま、今日もhappy reading!
続編はこちら。