トーキョーブックガール

世界文学・翻訳文学(海外文学)や洋書レビューを中心に、好きなことをゆるゆると書いているブログです。

『夢の本』 ホルヘ・ルイス・ボルヘス(堀内研二・訳)

[Libro de sueños]

ボルヘスの『夢の本』が河出文庫化されたので(単行本は国書刊行会から出ていて、翻訳者は同じく堀内研二さん)、早速購入した。

おそらく日本語で読むのは初めて。 

夢の本 (河出文庫)

夢の本 (河出文庫)

 

スペイン語版はこちら。 

Libro de sueños

Libro de sueños

 

実際、眠っている人の魂はその肉体を離れてさまよい歩き、いろいろな場所を訪れ、さまざまな人に会い、夢の中で見ていることを実行するという風に考えられている。

ジェイムズ・ジョージ・フレイザー『金枝篇』(1890)より

 ボルヘスを翻訳された方(どの翻訳者さんだったのかは失念した)がとある日本人の作家(これまた失念)に自身の翻訳書をお渡しした際、その作家さんが「コーカソイドは夢について語ることが好きですね」みたいなことを仰った……というのをどこかで読んだ記憶があるのだけれど、どこだっただろうか。

このボルヘスによって編まれたアンソロジーにはボルヘス自身が大好きな夢をモチーフにした文章ばかりが113篇も収められている。

冒頭は聖書からの引用がほとんどだが、その後は古い時代のものから順にたどるかと思いきや、徐々に時代も東西も入り乱れ、ありとあらゆる形の夢が登場する。『イリアス』、『オデュッセイア』はもちろん、ソーントン・ワイルダー、ジュゼッペ・ウンガレッティ、アントニオ・マチャード、カフカ、ニーチェ、曹雪芹、ルイス・キャロル、ボードレールと書き手もバラエティに富んでいる。

聖書ではヤコブの息子ヨセフの運命が、彼の見た畑の束の夢(彼の束が身を起こし立ち上がり、兄弟たちの束がそれを取り巻き、おじぎをするという夢)を通して語られるという話が子供の頃から深く印象に残っている。

夢のあり方も、聖書では予言のためのみに使われていたのが、夢の不思議さを問うようになったり、ただ楽しむようになったりと、どんどん変わっていく様子が見て取れる。

 

もちろんボルヘス自身による小作品も含まれる。

『砂の本』にも収録されていた、ボルヘスとしては異色の小さな恋愛物語「ウルリケ」や『創造者』の「夢の虎」だ。

「夢の虎」は大好きなので、何度も噛みしめるように読んでしまう。そして、ボルヘス同様虎の夢をよく見る身としては、自分の夢を思い返し、しばしぼんやりとしてしまう。

ちなみに私の中では虎の夢というのは成長したい、変わりたいと思っている時に見るもののようだ。

 

すべての記憶力の中で唯一価値あるものは

夢を思い出すというあの名だたる神の贈物だけ

アントニオ・マチャード

自分が見た夢をしっかり覚えている人もいれば、ほとんど忘れてしまう人もいる。カラーの夢を見る人もいれば、白黒の夢を見る人もいる。においがある夢を見る人もいれば、そうでない人もいる。

人の夢の話を聞くのは、とても楽しい。 

 

今年もラテンアメリカ文学がたくさん復刊されたり文庫化されたりしそうで嬉しい気分。

今は発売されたばかりの、こちらを読んでいます。 

20世紀ラテンアメリカ短篇選 (岩波文庫 赤 793-1)

20世紀ラテンアメリカ短篇選 (岩波文庫 赤 793-1)