トーキョーブックガール

海外文学や洋書レビューを中心に、好きなことをゆるゆると書いているブログです。

支離滅裂でめちゃくちゃ、なのにとんでもなく面白い: Yo Era una Mujer Casada セサル・アイラ

[わたしは既婚女性だった]

セサル・アイラの『わたしの物語』を読んだ時、巻末の訳者あとがきにYo Era una Mujer Casadaの紹介があったので、気になりKindleで購入して(たったの457円、Kindleだとかなりお買い得)読んだ。

ラテンアメリカ文学の中でも特に、アイラのぶっとびようは本当にとんでもない。誰もの意表をつくストーリー、裏切りに続く裏切り、突然ぷつりと切れるように訪れる結末(もう書くの疲れたからこの辺でやめよう、と思ってやめたかのような)。でもクセになる、中毒性のある作家。

Yo era una mujer casada (Spanish Edition)

Yo era una mujer casada (Spanish Edition)

 

2011年に出版されたYo Era una Mujer Casada(わたしは既婚女性だった)。「アイラに注意!」が合言葉の奇天烈作家のこと、主人公は女性でも既婚でもないに違いない!もう騙されないぞ!と決意して読み始めたところ、なんと主人公は本当に既婚女性のようである。冒頭の文章はこちら。

Yo era una mujer casada, y sufría por serlo. Como tantas otras antes y después que yo, tuve mala suerte en el matrimonio. Me havía casado con un verdadero monstruo. A lo largo de los años mi marido me había hecho objeto de vejaciones y ofensas sin fin. No porque yo le diera motivos, ni porque hubiera circunstancias que lo excitaran especialmente; el maltrato más violento era natural en él, siempore había sido así, no cambiaría nunca.

わたしは既婚女性で、そのために苦しんできました。わたし以前の、またわたしの後につづく多くの女性のように、結婚運がなかったのです。わたしが結婚したのは本物の怪物です。長年にわたって夫による虐待や攻撃の的にされ続けてきました。動機があったわけでも、特別な事情が存在したわけでもありません。暴力をふるって虐待することは彼にとっては自然なことで、いつもそうだったし、決して変わりませんでした。

(『わたしの物語』につられて、ですます調にしてみた)

なぜ彼と別れないのか、と友人らに問い詰められると主人公のグラディス(Gladys)は"Pero nunca me acerqué siquiera a pensarlo en serio. Quizás porque no tuve tiempo.(真剣に別れようと考えたことがなかった。多分時間がなかったから。)"と答えている。なんちゅうテキトーな理由だ、と思ってしまうけれども、彼女は夫が働かないので代わりに働き、家事も全てこなし、常にくたくたに疲れ果てているのだ。 

そんなある日、夫が珍しくグラディスの両親に会いに行くと言いだす。彼女の実家に寄り付かなかった夫が自ら進んで義両親に会いに行ってくれる…グラディスは幸福感に浸るのだが、帰宅した夫がお土産だと差し出した袋の中からは、なんと両親の頭(!)が出てくる。

警察に行くべきかと迷いつつも、罪をなすりつけられそうなのが嫌で行かないグラディス。そのまま幾日も過ぎていき、意を決して両親の頭が入った袋を再び確認すると…なんと、両親の頭だと思ったのはハリボテだったということが分かる。グラディスを同様させるためにいたずらしていたのだ。

この辺りからが、アイラの本領発揮。グラディスが暴走し始めて、妄想の話ばかりになる。

夫が浮気したとしたら、その浮気相手はこんな人で…と考えてみる。女友達と夫のDVについてぺちゃくちゃ話しまくる。のだが、"Yo no tenía amigas reales...Había creado un grupito de buenas amigas, sensatas y comprensivas, siempre desponibles para escucharme y responder a mis cuitas(私に女友達はいない。私の話を聞いてくれて、反応してくれる友達グループを頭の中で作り上げた)"なんて言ってくる。

そのうち病気になったりなんかして、グラディスも苦労しまくるのだが、もちろん「夫と離婚する」とか「家を出て行く」といった一般的な選択肢は出てこない。

こちらも全力疾走で、読み終えてしまった。 

 

セサル・アイラの最新作

日本語に翻訳されているアイラの小説は『わたしの物語』と『文学会議』のみだけれど、現在69歳の彼は精力的に作品を発表し続けていて、最近では1年に大体2-3冊は出版されている。

www.tokyobookgirl.com

ちなみに2018年に出版されたのはこちらの2冊で、日本のAmazonからもKindleで入手可能。あらすじはこんな感じらしい。

1. El Gran Misterio

[壮大な謎]

なんと、アイラの100冊目(!)の小説。「すべての起源」を知りたいと願う科学者の話で、この世界の様々な物事が創造主(神)によって造られたとは到底思えないけれど、人が作ったとも思えない。もしかすると高度な未知の文明によって人に教えられたことがたくさんあるのでは?と疑う科学者は、謎を解き明かそうとする。

El gran misterio (Spanish Edition)

El gran misterio (Spanish Edition)

 

2. Prins 

主人公はゴシック小説ばかり書いている著名な作家。ある日、彼はそういった種の小説を書くことを一切やめてしまう。自身の書きたいことを無視して、世の中が求めるものを執筆することに嫌気がさしたのだ。作家は阿片を摂取することで、人生を取り戻したいと考える(なんで〜笑)。そのために、ブエノスアイレスをバスで移動し、麻薬ディーラーたちでひしめくアンダーグラウンドの世界に潜入する。

Prins

Prins

 

どれを読んでもアイラにしか書けない小説、と感じられる稀有な才能。もっと色々読みたくなってしまいました。 

ちなみに今年はついにKindle端末Paperwhiteを入手したのだが、想像以上に優秀で目に優しく、愛用しています。フォントや文字の大きさを変えられるのがKindleの特徴で、iPhoneやMacからの利用で満足していたけれど、専用端末は軽いのもいい。本当に買ってよかった。遅ればせながら、Kindle、AudibleとAmazonにどんどん餌付けされているのが分かる…。

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