トーキョーブックガール

海外文学や洋書レビューを中心に、好きなことをゆるゆると書いているブログです。

『アメリカにいる、きみ』 チママンダ・ンゴズィ・アディーチェ

[Collected Stories]

著書が全て日本語に翻訳されている大人気作家チママンダ・ンゴズィ・アディーチェ。

こちらは2007年に出版されているので、邦訳第1作目のはず。

アディーチェの翻訳をすべて手がけているくぼたのぞみさんが、こちらも翻訳している。その優しい語り口はアディーチェならではなのだが、くぼたさんの翻訳も絶品である。多少メロドラマチックになりそうだと思いきや、氷のように冷たい一文があったりしてバランスが絶妙だと感じる。

こちらに収録されているのは2000年前半にアディーチェが発表した初期の短編9つ。

アメリカにいる、きみ

アメリカにいる、きみ

 

「アメリカにいる、きみ」

「アメリカ大使館」

「見知らぬ人の深い悲しみ」

「スカーフー密かな体験」

「半分のぼった黄色い太陽」

「ゴースト」

「新しい夫」

「イミテーション」 

「ここでは女の人がバスを運転する」

「ママ・ンクウの神さま」

 

「アメリカにいる、きみ」

「きみは」と話しかける文体で、ヴィザを得てナイジェリアからアメリカへ引っ越した女の子の新しい生活が語られる。

メイン州のおじさんの家に到着してほっとしたと思ったら、

狭苦しい半地下の部屋におじさんがやってきて、きみの胸を、まるでマンゴーの木から実をもぎとるようにぎゅっと引っぱり、うめき声をあげる

という事態が起こり、すぐに荷物をまとめて出て行くことになる。

頭のいい女はいつだってそうしてきたんだ……故郷のラゴスで高給取ってる女はみんなそうやって職を手に入れてると思わないか?ニューヨークの女だってそうだろうが?

などとほざく(excuse my French)おじさん。こういうこと言う気持ち悪いおじさんって、どの国にもいるもんですね。

その後アルバイトをしながら白人男性と付き合うようになった「きみ」が感じるナイジェリアに残してきた家族と新しい生活との間の大きすぎる隔たり、interracialな交際に投げかけられる冷たい視線、などが描かれることで「きみ」の孤独が浮き彫りになるところが良くて、最初に収録されている作品なのだがぎゅっと心を掴まれてしまう。

 

「新しい夫」

親戚の取りまとめでアメリカで医師として働く男性と結婚することになり、ナイジェリアから飛行機でアメリカにやってくる「わたし」。

夫はことあるごとに「わたし」のナイジェリア式の習慣を改めようとする。

「大声で車掌に叫ぶナイジェリアとは違う」せせら笑うように夫はいった。アメリカ式のそのやり方を、自分で発明したとでもいうかのように。

英語で話し、アメリカ式の料理を作ることを強要する。ある日、夫がグリーンカードを入手するためにした行動をしった「わたし」は出て行く決意を固めるが…。

ジュンパ・ラヒリの珠玉の短編「3度目で最後の大陸」と似たような設定ではあるものの、「インド、イギリス、アメリカと引っ越したインド人男性が淡々とアメリカでの新しい人生を語り、インドから呼び寄せた新妻がほぼ他人だと思える状態からかけがえのない存在になったことをほのめかす」ような心温まるものではなく、物理的にも精神的にも行き場のない女性の戸惑いや怒り、悲しみがダイレクトに伝わる物語だった。

停電の夜に (新潮文庫)

停電の夜に (新潮文庫)

 

ちょうど誤訳について色々考えていたところなので(ハン・ガンの"The Vegetarian"など)、訳者あとがきにて訳者がとことんアディーチェに惚れ込んでいるということや、著者と訳者間の信頼関係が伺えるのもよかった。

ちなみに、著者の写真(見開き裏)は草原で微笑む若かりしアディーチェ(まだ20代?)。邦訳出版にあたりアディーチェの近影をと頼んだらこの写真を送ってくれたとのこと。

 

だいたい3-4年ごとに新作を発表しているチママンダ。『アメリカーナ』が出たのは2013年だったので、そろそろ長編の出版があるのでは。楽しみですね。

みなさま、今日もhappy reading!

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