トーキョーブックガール

世界文学・翻訳文学(海外文学)や洋書レビューを中心に、好きなことをゆるゆると書いているブログです。

Sisters / デイジー・ジョンソン: 自分たちだけの世界に閉じこもる姉妹

 みなさまが「つい買ってしまう」(小説の)テーマやモチーフってなんですか?

 『文藝 2020年春夏号』の「源氏! 源氏! 源氏!」特集で、江國香織さんが「姉妹ものが好きで、姉妹と見るとつい買ってしまう」というような発言をされていた。読みながら、「わかる〜!!!!」と全力でうなずいたわたし。江國さんも2人姉妹の長女だが、それだけが理由ではあるまい。

 『あさえとちいさいいもうと』、『いもうとの入院』、『ふたり(赤川次郎)』に『細雪』。世界文学だと『ふたりのロッテ』に『スウィート・バレー・ハイ』、『若草物語』も! 子ども〜少女時代に読んだ姉妹ものって、どこからどう読んでもめちゃくちゃ面白いものしかない。

 というわけで、出版前から楽しみにしていたこちらを読みました。

Sisters

Sisters

  • 作者:Johnson, Daisy
  • 発売日: 2021/06/10
  • メディア: ペーパーバック
 

 デビュー長編Everything Underが2018年のブッカー賞にノミネートされたデイジー・ジョンソンの最新作(2作目)。ノミネート時は確か27〜28歳で(サリー・ルーニーも。そして2013年にブッカー賞を受賞したエレノア・カットンも)、ブッカー賞最年少ノミネートと話題になった作家。 

www.tokyobookgirl.com

 Everything Underは「言葉」をテーマにしながら(主人公は辞書編纂者)、オイディプス王を彷彿とさせる、retellingならぬreinventing / repurposingなストーリー展開の作品。

Everything Under

Everything Under

  • 作者:Johnson, Daisy
  • 発売日: 2018/10/23
  • メディア: ペーパーバック
 

 一方Sistersは、同じように孤立した環境での血族を描きながらも、ダークな雰囲気がより一層深まった物語である。 

 一人称で語る主人公は、オックスフォードで暮らすティーンエイジャーの少女July(ジュライ)。彼女にはSeptember(セプテンバー)という年子、いや、同い年の姉がいる。同学年なのだ。日本でいうところの4月生まれと2月生まれ(卯月ちゃんと如月ちゃん的な?)。同学年でも、小学校の途中くらいまでは体格もさまざまな能力もかなり差があるはずの月齢差。おそらくそういったことも関係して、ジュライはセプテンバーにうだつがあがらない。セプテンバーが言うことはなんでも聞き、セプテンバーがいないと不安になってしまう。

 この、特徴的なんだかそうじゃないんだかといった名前も印象的だ。まるで1人の女の子ではなくて、なんらかの集合体を見ているような気分にさせられる。メリッサとかミランダという名前だったら決して感じなかった心もとのなさというか、「没個性」を感じるのだ。それぞれが個人として存在することを許されていない、いつまでたっても2人で1つのような雰囲気も漂う。10代だというのに、1台のスマートフォンを2人で共有させられていたりとか。ちなみに最初の章は、彼女たちの名前を含めて各月の名前がフル登場して、とても目に楽しく、美しい。

 彼女たちには絵本作家の母親がいるが、父親はもう亡くなっている。母親はうつを患っており、体調や気持ちの変化も激しいことが徐々に明かされる。そのためジュライはセプテンバーと2人きりで過ごすことが多く、学校でも2人はなんとなく孤立している。

 だが、この3人家族はある日、逃げるようにしてオックスフォードを離れ、ヨークシャーに建つ寂れきったぼろ家に引っ越してくる。その原因となったのは、ジュライなのかセプテンバーなのか。

 

 夢か現かといった語り口や、体言止めも多く使用されている一つ一つが短い文からは、日本の作家の作品が多く想起される。たとえば『きことわ』や、デイジー・ジョンソンと同じくスティーブン・キング作品の大ファンだと公言している吉本ばなななど。「あ、この作品は日本語訳されないかもしれない。日本の作家の作品に近すぎる」と思ったくらいなのだ。というよりも、漫画かもしれない。思わぬ方向に話が展開する、ちょっとホラー風味の少女漫画。支配的な肉親からのemancipationや、個としての自立も、ことのほか日本人が好むテーマだなと思いながら読み終えたのだった。

きことわ (新潮文庫)

きことわ (新潮文庫)

 

 冒頭で書いた江國香織の作品では、『流しのしたの骨』が「実家」に住んでいるかいないかで少しだけ変わる兄弟姉妹関係を描いていて(これは江國版『細雪』である)、もっと心おだやかに読める姉妹ものとして再読したくなった。 

流しのしたの骨 (新潮文庫)

流しのしたの骨 (新潮文庫)

  

 あとは『バラ色の明日』の単行本だと2巻に収録されている(はず)ふたごのエピソードなども思い出す。こちらのふたごも学校でちょっと孤立しているが、お互い以外は必要ないと常々考えている。その屈折が、家庭環境の複雑さからきているというところも似ているかも。

バラ色の明日 2 (マーガレットコミックスDIGITAL)

バラ色の明日 2 (マーガレットコミックスDIGITAL)

 

 そして、一番近いのは先日『100分de萩尾望都』でも紹介されていた「半神」。なのだけれど、そう言ってしまってはかなりネタバレに近くなってしまう……。この物語は一体どういう意味なんだろうと考えさせるところまで似ている! 

半神 (小学館文庫)

半神 (小学館文庫)

  • 作者:萩尾望都
  • 発売日: 2014/09/08
  • メディア: Kindle版
 

 

 そして! 今年はブログ上で「連想読書」をしようと思います。この作品からスタートで。同じテーマとか形態とか作家の特徴とかで「つながる」本について、どんどん書いていこうというだけですが……2021年の終わりには、1つの記事にまとめてみよう。で、「家」の物語といえば、シュウェブリンの日本語訳作品『七つのからっぽな家』。これもspookyでちょっとダークなところがある短編集。まだ感想を綴っていなかったので、どこかで書こうと思う。

七つのからっぽな家

七つのからっぽな家

 

 ではみなさま、今夜もhappy reading!