2020年は、読書スタイルも色々と変わっていった年だったのだけど、変化の一つはGoodreadsをついにほとんど利用しなくなったことである。
ちなみに日本語での読書管理は長年読書メーターを使用していたが、こちらも数年前にやめてしまった。
どちらも2000年代後半のサービス開始当初から愛用していたので、時代の移り変わりを感じる。利用しなくなった理由はともに私的なものが主だが、読書メーターは「文字数の制限」も大きい。一方Goodreadsは、特に他の人の感想を見るという用途では「完全にInstagram(#bookstagram)に移行した」感がある*1。文字制限もないし、タグで興味あることを見つけやすいし、やっぱりすてきな写真を見るのは楽しいしで、遅ればせながらリアルライフのアカウントとは別に読書アカウントを作った。
表題の #januaryinjapan は最近よく見ているタグです。
去年から世界文学好きの方が #readtheworld21 というタグで毎月のリーディングをホストしていて、去年も今年も、1月は「日本文学を読もう」月間になっている。
2020年はそれこそまだギリギリ新型コロナウイルス感染症の大流行直前だったので、このタグは日本を実際に(1月に)訪れている人々の写真にも使用されていて、ちょっと見にくかったのだが今年はさすがに本の写真しかない。
こうやって見ていると、改めて世界は広いなあ……すごいなあ……と思う。英語のタグにもかかわらずドイツ語や中国語やスペイン語やインドネシア語で読んでる人がいて、それぞれの言葉でも英語でも感想を綴っていて、チェコやナイジェリアにもJapanese Studiesとか日本文学を学んでいる学生さんがいて、すでに宇佐見りんの作品を日本語で読んだりしている。
そういう文学の世界でのグローバリゼーションを可視化したInstagramの功績は大きい。他のソーシャルメディアではなかなかこうもいくまい。
女性作家の作品が増えて
さ〜っと見ていると、やっぱり今年と去年とではラインナップがだいぶ違うことに気づく。2020年には、多くの女性作家による日本語の作品が英語に翻訳された。その上柳美里の『JR上野駅公園口』は全米図書賞(翻訳部門)を受賞し、The New York Timesの100 Notable Books of 2020にも4作品が入ったので(『ユージニア』、『夏物語』、『地球星人』、『JR上野駅公園口』)、このあたりを読んでいる人がめちゃくちゃ多い。
もちろん、国際ブッカー賞にノミネートされた小川洋子の『密やかな結晶』を読んでいる人も多いし、
松田青子の『おばちゃんたちのいるところ』を読んでいる人も多い。
そして2020年以降、日本語圏以外の人による「日本文学ブッククラブ」とか「日本の女性作家の本ばかり読んでいるアカウント」が雨後の筍のようにたくさんできている。
別に日本文学だけではなくて、世界中で#MeTooなどの動きと並行するように、女性作家の作品の翻訳が増えている。日本にもラテンアメリカ文学の女性作家の作品がたくさん入ってきつつあるし(これは翻訳者の松本健二さんの功績も非常に大きいと思う。ありがたや〜)!
また、とある小説を読んでいたbookstagrammerさんが「こういう『男がミステリアスで奔放で都合のいい女に出会って成長して別れて、のちのち戻ってくる』みたいな話を読むのはもうたくさん。こういうのはもううんざりするほど読んだから、二度と読みたくない」とつぶやいているのを見て、はっとした。そうだそうだ。全世界の女性が実生活で"We've had it"と感じている。この"We've had enough"の輪は確実に、文学をも通じて広がっている。翻訳者の斎藤真理子さんがTwitterで『82年生まれ、キム・ジヨン』について「多くの人の堪忍袋の尾を切った」作品だったとつぶやかれていて、その通りだと深くうなずいた。きっと翻訳された日本文学を読んでそう感じる人も多いのだ。わたしが世界文学を読んで同じことを考えているように。
オールタイムフェイバリット
あとはやっぱり村上春樹作品の多いことよ。
大江作品もかなり。
吉本ばななの『キッチン』も! これは、学生時代に初めて英語訳を読んで腰を抜かした記憶がある。翻訳者はMegan Backus。
冒頭がこんな感じ。
The place I like best in this world is the kitchen. No matter where it is, no matter what kind, if it's a kitchen, if it's a place where they make food, it's fine with me. ideally it should be well broken in. Lots of tea towels, dry and immaculate. White tile catching the light (ting! ting!).
原文はこちら。
乾いた清潔なふきんが何枚もあって白いタイルがぴかぴか輝く。
他にも「ほ〜! へ〜!」と思った箇所がいくつもあった。これでオノマトペを表現してるんだ、体言止めが多くいかようにも解釈できる文章をこう翻訳したんだ(苦労のあとがうかがえるような……)、創作において多大な影響を受けたと吉本ばなな自身が語る大島弓子作品に通じる語り口をこうして英語で表現しているんだ、など。
そういえば最近では、デイジー・ジョンソンのSistersを読んでいて近いものを感じた(これはまた別の投稿で)。
谷崎潤一郎作品も幅広く入っている。
こんなのも
ルース・オゼキとカズオ・イシグロを読んでいる人もわりといる。単純に英語圏の本って翻訳者の名前が表紙にも出ないし(これについて苦言を呈する読者は多い)、本屋さんでも英語文学と翻訳文学がごったまぜでA-Z順で並べられているところが多いからというのもあるだろう。『浮世の画家』とか『あるときの物語』は日本が舞台。
A Tale for the Time Being (Canons Book 102) (English Edition)
- 作者:Ozeki, Ruth
- 発売日: 2013/03/11
- メディア: Kindle版
ジョイ・コガワの『失われた祖国』もありますね。これはぜひ今年中に読み返したい一冊。
普通に北海道とかが登場する北米文学を読んでいる人も。
わたし読んでない!
となんだかアセアセする気持ちにもなる。ドリアン助川の『あん』は読んでいる&絶賛している人がものすごく多い。わたしは読んでない……映画も観てない……というか映画になったことすら知らない。2013年だもんね(when I had no life)。
辻村深月の『かがみの孤城』、装丁もすてきすぎる。本屋大賞とのこと。
わたしの周りでは(日本人以外の友人)とんでもない人気を誇る安部公房。このタグでは『密会』を読んでいる人を何人も発見。読んだことないよ〜。
川上弘美の『このあたりの人たち』も読んでない! これも2020年に英語訳が出版されている。
円地文子の『女坂』も読んでない!
The Waiting Years (Vintage Classics) (English Edition)
- 作者:Enchi, Fumiko
- 発売日: 2019/11/07
- メディア: Kindle版
トーキョーブックガールの #januaryinjapan
というわけで、わたしは何を読もうかなと考えているところ。
去年は田辺聖子の乃里子三部作を再読して(数百回目)お茶を濁した上に写真を撮るのが億劫で投稿したのは2月だった。
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今年は新しいものを読みたいなあ。
あの関西弁、あの雰囲気、どう訳しているの?ととっても気になる『夏物語』を英語で読みたい。
今非常にわたしの中でホットな、「アンドロイドと人間の交流」を描いたこちらも読みたい。
『海をあげる』も積んでいる。早く読みたい!
と、色々読みたい欲がむくむくと湧き上がるタグでした。
みなさま、残りの連休もhappy reading!
*1:でもきっかけはGoodreadsで見ていたエマ・ワトソンのブッククラブOur Shared ShelfがInstagramに移ったこと。というか、Goodreads上でエマが隔月のbook recommendationをしていたのを廃止し、Instagramで読んでいる本を公開するようになったこと(Our Shared Shelfでは今も隔月のお題本が発表されていて、GoodreadsでもInstagramでも活動をフォロー可能)。ちなみにエマは2021年現在、Instagramの更新もストップ中ではある。