(二匹のかたつむりの会話)
なぜわざわざ英語で……という感じがしなくもないが、以前ブログに書いた文庫サイズのPenguin Modernシリーズからロルカの作品集が出ていたので衝動買いしてしまった。
衝動買いしたくもなるよ、この値段なら(イギリスでは1ポンド。日本で買っても、150〜300円の間くらい。Kindle版もあります)。
The Dialogue of Two Snails (Penguin Modern)
- 作者: Federico García Lorca
- 出版社/メーカー: Penguin Classics
- 発売日: 2018/02/22
- メディア: ペーパーバック
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ここに収録されている作品は次の通り。日本語訳されているものは日本語のタイトルもつけてみたけれど、手元にロルカの日本語訳全てがあるわけではないので漏れもあるはず。
The Dialogue of Two Snails
The Encounters of an Adventurous Snail かたつむりの出会ったこと
Tree of Surprises
In the Garden of Lunar Grapefruit 月のザボンの庭
Telegraph
Bandolero (Bandit)
Scene of the Lieutenant Colonel of the Civil Guard
Song of the Battered Gypsy
Las Seis Cuerdas (The Six Strings)
Riddle of the Guitar
The Six Strings
Castanet カスタネット
Conjuring
Knell
Song
Quasi-Elegy
Landscape 風景
Tree
Field
They Felled Three Trees 三本の木が切り倒された
Street of the Wordless Ones
Tree of Song
Seashell ほら貝
Cradle Song
Amor (Love)
Gypsy Zorongo ソロンゴ・ヒターノ
The Moon and Death 月と死神
Ballad of the Moon, Moon 月よ、月よのロマンセ
The Gypsy Nun
Tamar and Amnon タマルとアムノン
Each Song
Autorretorato en Nueva York (Self-portrait in New York)*1
愛、死、夜、緑、かたつむり、月、ジプシー、歌、庭と、ロルカの好んだモチーフを繰り返し繰り返しなぞっていると心が安らぎ、月明かりに照らされた庭の芝生に裸足で立っているような良い気分になる。
この作品集はほんの150ページ程度と短いながらも、詩も戯曲もバランス良く織り込まれているのが素晴らしい。
今回英語で読んでみて改めて感じたのは、詩の翻訳者というのは偉大なものだなあ……ということだ。それに尽きる。ロルカの詩の良さであるリズムや声に出した時の面白さというのは、英語よりも日本語の方が分かりやすいだろうと常々思っていた。やっぱり言葉の感じがスペイン語と日本語で似ているし、本作に収録されている作品でいうとcaracola(ほら貝)とかcrótaro(カスタネット)の繰り返しとか、日本の擬音語・擬態語に近いものがあるからだ。でも英語の言葉の選びとり方も巧みだ。
詩は原語で読むに勝るものはないとずっと考えていたけれど、翻訳もいいな、やっぱり翻訳って素晴らしいなと実感した次第。
こちらは「Seashell(Caracola / ほら貝)」の比較。
(スペイン語)
Me han traído una caracola.
Dentro le canta
un mar de mapa.
Mi corazón
se llena de agua
con pececillos
de simbra y plata.
Me han traído una caracola.
(日本語)*2
わたしがもらった 一つのほら貝。
中で歌っている
地図の海。
わたしの心には
水がいっぱい溢れ出す
影と銀との
小さな魚も。
わたしがもらった 一つのほら貝。
(英語)
They've brought me a seashell.
Its depths sing an atlas
of seascapes downriver.
My heart
brims with billows
and minnows
of shadows and silver.
They've brought me a seashell.
こちらは「The Moon and Death(La Luna y la Muerte / 月と死神)」の冒頭の部分 。
(スペイン語)
La luna tiene dientes de marfil.
¡Qué vieja y triste asoma!
Están los cauces secos,
los campos sin verdores
y los árboles mustios
sin nidos y sin hojas.
Doña Muerte, arrugada,
pasea por sauzales
con su absurdo cortejo
de ilusiones remotas.
Va vendiendo colores
de cera y de tormenta
como un hada de cuento
mala y enredadora.
(日本語)
月が象牙の歯をもって
悲しげに老人の顔で現れる!
河床のみずは涸れ
野には一本の草もなく
葉も 鳥の巣もない。
しおれた木々が立っている
皺だらけの死の女神が
はるかに遠い幻たちの
妖しい行列をともなって
柳の原を過ぎていく。
蝋と嵐の
絵の具を売りながら通っていく
人騒がせな意地悪な
お伽話の妖女のように。
(英語)
The moon has teeth of ivory.
How old and sad she looms!
The riverbeds are dry,
the fields devoid of green;
the trees, so wan and sere,
are stripped of leaves and nests.
The moon has teeth of ivory.
And wrinkled Lady Death
now walks the willow groves,
her court absurdly formed
of empty, far-fetched hopes.
She’s hawking hues of wax
and shades of thunderstorms, –
a fairy from a tale:
a wicked busybones.