1年のはじめ、1月に更新しようと思っていた読みたい「今年の新刊」リスト(世界文学・翻訳文学)。今年はこんなに遅くなってしまったけれど、better late than neverだと思って投稿してみる。
去年のものは、こちら。
別のジャンルのものは別の形でアウトプットの場所を作ろうかなと考えていて、今年はliterary fictionに絞っています。
英語
Weather / ジェニー・オフィル
愛し合っているカップルが結婚し、子供が生まれ、変わっていく関係を描いた前作Dept. of Speculationに続き出版された、ジェニー・オフィルの三作目。気候変動や文明の崩壊について現代人が抱く恐怖や、周囲の人々との関係性を、リジーという図書館司書の生活を通して描き出した作品。Twitterのような文章(ビネット)が特徴的。
読みたいリストの更新が遅すぎて……これはもう読んでしまった。
All Adults Here / Emma Straub
Emma Straubの新作。
街の中心地でスクールバスの事故を目撃したアストリッドは、何十年も昔の子育てしていた日々のことを思い返す。そして、子供たちにとって自分はいい親ではなかったのではないかと自問し、3人の子供たち(とっくに成人済み)と会話するのだが……。
The City We Became / N・K・ジェミシン
The City We Became: A Novel (The Great Cities Trilogy) (English Edition)
- 作者:Jemisin, N. K.
- 発売日: 2020/03/24
- メディア: Kindle版
日本でも『第五の季節』が出版されたジェミシンの新作。3部作の1作目(The Great Cities Trilogy)らしい。
突然自分が誰だかわからなくなる代わりにマンハッタンの魂を感じられるようになった大学院生、ブロンクスで美しいストリートグラフィティーに惹かれるギャラリーのディレクター。ニューヨークという都市が持つ命について。
Death in Her Hands / オテッサ・ モシュフェグ
犬との散歩中に森の中で手書きのメモを見つけた老婦人。そのメモには"Her name was Magda. Nobody will ever know who killed her. It wasn't me. Here is her dead body."とあるのだが、死体はどこにもない。
ホラー、サスペンス、ブラックユーモアの組み合わせで、夏の読書に良さそう。
Blue Ticket / ソフィー・マッキントッシュ
ソフィー・マッキントッシュは、2018年のブッカー賞にノミネートされていたThe Water Cureも面白かったので、新作もぜひ読みたい。
Summer / アリ・スミス
毎年一冊出版されている、Seasonal Quartetもついに最後の四作目。時が経つのは早いなあ……。先日、Simon Prosserがこう呟いていたので、読者のもとに届くのももうすぐですね! しっかりと『冬物語』も再読して、わたしも準備万端!
Ali Smith’s SUMMER has gone to press! pic.twitter.com/7jJOZpKADL
— Simon Prosser (@HamishH1931) 2020年6月17日
Sisters / デイジー・ジョンソン
たしか『文藝』の「源氏! 源氏! 源氏!」特集で、江國香織さんが「姉妹ものが好きで、姉妹と見るとつい買ってしまう」というような発言をされていた。分かる〜! わたしも。
最年少でブッカー賞にノミネートされた作家、デイジー・ジョンソンの新作は10か月しか違わない姉妹(年子じゃないけど双子でもない)が主人公。シングルマザーと3人で暮らす姉妹が学校でいじめを受け、人里離れた地域に引越してから周りに起きる出来事を描いた作品。
Exciting Times / Naoise Dolan
Exciting Times: THE SUNDAY TIMES BESTSELLER (English Edition)
- 作者:Dolan, Naoise
- 発売日: 2020/04/12
- メディア: Kindle版
装丁も素敵。22歳で故郷アイルランドを飛び出し、香港で富裕層の子供たちに英語を教える仕事をはじめたAvaと、その地でできた恋人Julianをめぐる金と恋愛の物語。
If I Had Your Face / Frances Cha
これはInstagramで見て以来気になっている作品で、現代の韓国社会におけるルッキズムと、それに翻弄される若い女性を描いた作品。
作者はCNN International(ソウル)のエディターだった人物で、韓国文学とはまた違う角度から韓国の今を見せてくれそう。
最初のページから、キャバ嬢(っていうのかな? 韓国でも。"room salon girl"とされていたが)になりたい女の子とキャバ嬢の会話が始まり、整形の成功・失敗についてすったもんだが繰り広げられる。
Darkness as a bride / ジョン・アーヴィング
まだ詳細不明だけれど、アーヴィングの新作が出るということで楽しみに待っている。わたしは『未亡人の一年』ファン。『未亡人』を超える感動に出会いたい(いや、出会いたくないかも……)と思いながら毎作読んでいる。
スペイン語
La Casa del Padre / Karmele Jaio
2人の登場人物を通して現代スペインのマチスモや女性の抱えるハンディキャップを描いている。
翻訳文学 / Translated Literature
A Long Petal of the Sea / イサベル・アジェンデ(スペイン語>英語)
文壇に登場した時は『精霊たちの家』が『百年の孤独』と比較され、ラテンアメリカ文学の新たな担い手のように扱われていた(のだと思う)アジェンデ。ただし、彼女にマジックリアリズムを継承しようとか純文学を書いていこうという気持ちは初めから全くなかったのだと、インタビューを読んでいると気づかされる。自由な魂を持っているアジェンデは、ラテンアメリカからアメリカへ移住し、あっという間に「ラテンアメリカについて書かない」作家になっていた。
その作品には、孫を思って書いた児童文学もあり、ラブストーリーもあり、『パウラ、水泡なすもろき命』のような胸の詰まる自伝(アジェンデの作品の中で一番好き)もある。面白いものもあれば、正直つまらないものもある。のだが……今年出版されたこちら、どうやら「アタリ」みたいだ!
ソーシャルメディアやGoodreadsでも驚異の高レーティングで、「最近のアジェンデの作品はいまいちだったけれど、これは最高」と綴る人が続出している。これは読まねば。
あらすじは次の通り。
1939年、若き医師ビクトル・ダルマウはスペイン内戦に伴い、愛するバルセロナを去る決意をする。義妹のロセルとともに、詩人パブロ・ネルーダがチャーターしたボートで、「largo pétalo de mar y vino y nieve(long petal of sea and wine and snow)*1」が待つチリに向かうのだ。その後四世代にわたって繰り広げられる愛と悲劇、自由と抑圧の戦いを描いた物語。
Little Eyes / サマンタ・シュウェブリン(スペイン語>英語)
これもすでに読み始めています。2020年国際ブッカー賞ロングリストにノミネート。
Tender is the Flesh / Agustina Bazterrica(スペイン語>英語)
これはタイトルに惹かれて。Tender is the Nightならぬ、Tender is the Flesh。日本語訳だとやっぱり『肉はやさし』?
マルコスは、精肉会社で働いている。肉は肉でも、人間の肉だーーというちょっとこわい話。面白い翻訳文学をたくさん扱っているPushkin Pressから。
Your Ad Could Go Here / オクサーナ・ザブジュコ(ウクライナ語>英語)
ウクライナの歴史から兄弟間の喧嘩まで、さまざまなモチーフを取り扱った短編集。なんだかもうタイトルに惹かれてしまって。
Death is Hard Work / Khaled Khalifa(アラビア語>英語)
シリア人作家による作品。ダマスカスで命を終えようとするアレッポ地方出身の老人は、自分が死んだらAnabiyaにある墓に埋めてほしいと息子に頼む。問題は一つだけ。Anabiyaはダマスカスから車で2時間の位置にあり、内戦真っ只中にあるシリアの航戦地帯なのだ。
『セレスティーナ カリストとメリベーアの悲喜劇』フェルナンド・デ・ロハス(スペイン語>日本語)
ラ・セレスティーナの新訳! 『テラ・ノストラ』にもモチーフとして登場する、スペイン文学の礎の1つ。
みなさま、2020年後半もhappy reading!
*1:Pablo Nerudaの"Cuándo de Chile"より。