トーキョーブックガール

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2018年 ギラー賞ショートリスト

 10月1日にカナダ・ギラー賞のショートリストが発表になっていたので、今日はこちらを。

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 アメリカとカナダの国境沿いをドライブしていると、発見がいろいろある。風景は全く変わらないのに、国をまたいだ途端にフランチャイズのレストランでもドリンクのサイズが小さくなったり、パンと一緒に出てくるのがマーガリンからバターに変わったり(アメリカ⇨カナダ)。文学にもそういう違いがあるなあと感じる。

 ギラー賞とはカナダで最も権威ある文学賞の一つで(他にはカナダ総督文学賞などがある)、カナダ人の小説家に与えられるもの。条件としては著書が英語で出版されていることで、他言語からの翻訳でも可。短編集でも長編でも、ジャンルもなんでもござれ。

 審査員はカナダ人作家が務めることも多く、マーガレット・アトウッドやアリス・マンロー、アリステア・マクラウドが登場したりするというのもファンにはたまらない。また、ブッカー賞にノミネートされるカナダ人作家の作品はほとんどの場合同年のギラー賞リスト入りも果たしている。

 今回久しぶりにロングリストの作品を眺めていて、その多様性に改めて驚いた。いろいろなバックグラウンドを持つ作家が、いろいろな言語で作品を生み出し、ノミネートされている。何が「カナダ文学」で何がそうでないのか、そんなの愚問といわんばかりに色とりどりの作品がノミネートされているのが魅力だと思う。

 

 ではまず2018年のショートリストから。もうどれもめちゃくちゃ面白そうで、全部読みたい。

French Exit / Patrick DeWitt(パトリック・デウィット)

French Exit

French Exit

 

 これは、装丁に一目惚れして読もうと思っていた一冊(AmazonのはKindle版なので別のカバーが出ていますが)。

 フランシス・プライスはニューヨークのアッパー・イースト・サイドに暮らす未亡人。スキャンダルや今にも倒産しそうな会社に悩まされている。30代のマルコムという息子がいるが、発育遅滞状態であてにならない。フランシスは家族を連れてニューヨークを脱出し、一路パリへ。ハイ・ソサエティの悲劇を描いた物語。

 パトリック・デウィットは2012年にThe Sisters Brothersでブッカー賞ショート・リストにもノミネートされている。 

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Songs for the Cold of Heart / Eric Dupont(エリック・デュポン)

Songs for the Cold of Heart

Songs for the Cold of Heart

 

 翻訳はPeter McCambridge(作者はモントリオール出身でフランス語で執筆)。英語タイトルも素敵。ちなみにフランス語タイトルはLa Fianceé Américaine(アメリカ人の婚約者)。

 その昔、ケベックにマデレーヌという名の少女がいた。小柄の赤毛の女の子で、ケベック出身の男性と恋に落ち、赤ちゃんが生まれる。しかし、赤ちゃんが大きすぎるせいで、出生時に両親とも亡くなってしまう。ガブリエル・ガルシア=マルケスを彷彿とさせる魔術的な小説とのこと。

 

Washington Black / Esi Edugyan(エシー・エドゥージャン)

 下記がレビューです。とにかく面白かったの一言。

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Motherhood / Sheila Heti(シェイラ・へティー) 

Motherhood

Motherhood

 

 トロント出身の作家による、現代の女性を描いた小説。自身の体験、フェミニスト論、時間や芸術について……。よく泣く母親から生まれ、母のようにはならないと誓っていた女性が、なぜか母のようになってしまっている。「わたし」は36歳。同居中のボーイフレンドは前妻との間に女の子がいて、これ以上子供は欲しくないという。もし「わたし」が欲しいのであれば「作ってもいいけど、欲しいという確信がないとだめだよ」と唱える。わたしは子供が欲しいのか? 子供が母に与えてくれる喜びを、そして悲しみや苦悩を、考え続ける。現代女性の抱える悩みや苦しみを書いている。

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An Ocean of Minutes / Thea Lim(テア・リン)

An Ocean of Minutes

An Ocean of Minutes

 

 シンガポール出身・トロント在住の作家による作品。アメリカは死に至るインフルエンザが大流行していた。夫の医療費を確保するため、タイムトラベルすることを決意する妻。夫婦は未来で落ち合うことを約束する。彼女にとっての5分は、夫にとっての12年。そしてその間、二人は赤の他人となる。社会階級、移民、国籍、企業、貧困など、様々な現代の問題を描いた物語。

 

 学生時代は熱心に追いかけていたのにマーガレット・アトウッドが審査員を務めていた2008年頃から、私は物理的にカナダから遠ざかり、ギラー賞のことを忘れていた。今年のラインナップが魅力的すぎて反省……。5冊全て読みたい。

 

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