トーキョーブックガール

世界文学・翻訳文学(海外文学)や洋書レビューを中心に、好きなことをゆるゆると書いているブログです。

表紙がネコ科大型動物の小説にハズレはない説(海外文学 15冊)

 本をジャケ買いしてしまいがちだという皆様、ツボはなんですか?

 私は表紙にトラやヒョウといったネコ科の大きな動物が描いてある本が好きで、見かけたらついついコレクションに加えてしまうという癖がある。一生のほとんどを犬と暮らしているし、どちらかというと犬派なのだけれど、なぜだろう。

 子供の頃の愛読書が『ジャングル・ブック』だったからかもしれない。

 今まで集めたネコ科たちカバーの本がどれもとてつもなく素晴らしい作品で、ハズレが一つとしてなかったから(個人的な意見です)というのもあるかもしれない。

 ちなみにトラやヒョウの夢も、子供の頃から高頻度で見る。夢の中の恐怖=トラやヒョウに追いかけられること、夢の中の幸せ=トラやヒョウと仲良くなること、といっても過言ではないくらいだ。やっぱり生き物としてしなやかで美しいから、憧れているのだろうか。ネコ科の大型肉食獣って体そのものが芸術だなと思う。

 今ではネコ科大型動物の表紙をみたら条件反射で購入するようになってしまった。

 昨年読んだローレン・グロフのFloridaも例に漏れず面白かったので、家にあるネコ科大型動物表紙の小説のリストを作ってみた。12冊(&これから読みたい3冊)です。

 

Florida / ローレン・グロフ 

Florida

Florida

 

 「フロリダ」を舞台もしくはテーマにした短編ばかり集めた短編集ということもあり、表紙はフロリダパンサー(作品中にも登場し、既婚子持ち女性のやるせなさを表現するモチーフとなっている)。なんというか、深く息づいているような作品ばかり。目を離したら登場人物たちがそのまま歩き出してどこかへ行ってしまいそうな……。

www.tokyobookgirl.com

 

El Aleph(アレフ) / ホルヘ・ルイス・ボルヘス

El Aleph / The Aleph (Biblioteca Jorge Luis Borges)

El Aleph / The Aleph (Biblioteca Jorge Luis Borges)

 

 『アレフ』の原書(スペイン語版)の表紙はトラ。短い作品の中には世界が、宇宙が、未来が、つまっている。ブエノスアイレスから宇宙の果てまで、ボルヘスの心ともう見ることのできない目が旅をする。いつか彼の言葉がすとんと腑におちる日がくるだろうと思って何度も読みかえすが、まだまだ迷宮をさまよっている。

 

Dreamtigers(創造者) / ホルヘ・ルイス・ボルヘス

Dreamtigers (Texas Pan American Series)

Dreamtigers (Texas Pan American Series)

 

 こちらは『創造者』の英訳版。スペイン語タイトルもEl Hacedorなのだが、なぜか英訳版では「夢の虎」が前面に押し出されて表紙にもなっている。鏡や夢、トラ、チェスとプレーヤーといったボルヘスを魅了し続けたモチーフが繰り返し登場し、光を放つ。

 トラに魅了されてやまないのに、ボルヘスの夢に出てくるトラは猛々しい野獣などでは全くなくて、弱々しい生き物だというぼやきがなぜだか心に残る。

 

『パイの物語』 ヤン・マーテル

パイの物語(上) (竹書房文庫)

パイの物語(上) (竹書房文庫)

 
パイの物語(下) (竹書房文庫)

パイの物語(下) (竹書房文庫)

 

 『パイの物語』は原書も日本語版(竹書房文庫)も同じ表紙なのですね! しかも竹書房文庫は上下巻で船の向きが変わっていてかわいい。

 カナダ人作家による作品で、トラと漂流することになった少年を描いたもの。語り手はインドを訪れている作家で、とある人物に会うように助言される。その人物が語り始めたのは「インドで始まりカナダで終わる」サバイバルストーリーだった……。

 父親が外交官で、スペインで生まれ様々な国を転々とした作家らしく、広い世界を感じることのできる物語。

 

Bobcat & Other Stories

Bobcat & Other Stories

 

 アメリカ人作家、レベッカ・リーによる短編集。本作とThe City is a Rising Tideの2冊しか出版していないものの、どちらも都会に暮らす現代の若者の悲哀を描いていて素晴らしい。 

 表題にもなっているBobcatは、マンハッタンで開かれた普通のディナーパーティーの話。ホストの夫婦がテリーヌを用意しているのだが、二人の間には不協和音が流れているようだ。そしてゲストが到着し始め、会話が交わされパーティーは温まり、最後の最後にはボブキャットも登場する。

 

『神の動物園』 / ケン・リュウ

紙の動物園 (ケン・リュウ短篇傑作集1)

紙の動物園 (ケン・リュウ短篇傑作集1)

 

 SFなのだけれど、心の中の柔らかい部分を突いてくるような、どこか昔懐かしいようなセンチメンタルな作風が特徴の作家ケン・リュウ。表題作「紙の動物園」は中国人の母親を持つ息子の話で、母が作ってくれた折り紙やアルミの虎が印象に残る。

 最新作『生まれ変わり』は目下積んでいるところ。早く読みたい。

 

『タイガーズ・ワイフ』 テア・オブレヒト 

タイガーズ・ワイフ (新潮クレスト・ブックス)

タイガーズ・ワイフ (新潮クレスト・ブックス)

 祖父が亡くなった。祖父と同じく医者になった孫娘は、彼の人生を振り返る。いつも『ジャングル・ブック』をポケットに忍ばせ、動物園のトラを見に連れて行ってくれた祖父。不死身の男やトラの嫁といった摩訶不思議なエピソードを通して紛争で真っ二つに分断されるユーゴスラビアの悲劇が浮かび上がる。

 英語版の表紙も、またちょっと違った雰囲気で良い。

The Tiger's Wife

The Tiger's Wife

 

 

The Leopard(山猫)/ トマージ・ディ・ランペドゥーサ

The Leopard: Revised and with new material (Vintage Classics)

The Leopard: Revised and with new material (Vintage Classics)

 

 由緒正しきシチリアの名家に生まれた作者が自分の祖先である公爵をモデルに書き上げた大河小説で、ガーディアンの千冊にも選ばれている作品。

 一度夏にシチリアを訪れたことがあるが、その島のあまりの美しさに、ファブリツィオの「たとえイタリアを統一させた者であっても、私からこの美しい景色を奪うことはできない」というような言葉がふと頭に浮かんだのだった。

 日本語版は絶版になっているうえに、表紙は山猫じゃないのが残念。

山猫 (岩波文庫)

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  • 作者: トマージ・ディランペドゥーサ,Giuseppe Tomasi di Lampedusa,小林惺
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『あなたを選んでくれるもの』ミランダ・ジュライ

あなたを選んでくれるもの (新潮クレスト・ブックス)

あなたを選んでくれるもの (新潮クレスト・ブックス)

 

 なんだかクレストブックスは、虎が表紙になっていることが多いような?

 映画の脚本執筆に行き詰まってしまったジュライが、フリーペーパーに出ているバイバイ広告を眺め、色々な物を売ろうとしている人々を訪ねるというルポルタージュで『いちばんここに似合う人』につぐ二作目。

 同じ州に住んではいても、普通に暮らしていたら階級格差の関係から交わることは絶対にないような人々に会いにいくジュライ。時に自分のいやらしさを実感し、時に会った人の生命力に圧倒されながらも、この経験は映画制作にも密接に関わっていく。ノンフィクションではあるものの、ジュライが変わっていく様子がまさに小説のようでもあり、写真の迫力もすごい。この経験が『最初の悪い男』に見られる生々しさにつながったのだろうなと思わせるものがある。

 雑多な物やそれぞれの人生から浮かび上がる現代アメリカの姿が愛しい。

 

The Jungle Book(ジャングル・ブック)/ ラドヤード・キプリング

The Jungle Book (AmazonClassics Edition) (English Edition)

The Jungle Book (AmazonClassics Edition) (English Edition)

 

 『ジャングル・ブック』も当然トラが表紙になっているものが多い。モーグリと一緒に冒険できる読者の子供たちは本当に幸せ。

 日本語訳は新しいものが新潮文庫から出ていたので(映画化にあわせて)こちらも近々読んでみたい。

ジャングル・ブック (新潮文庫)

ジャングル・ブック (新潮文庫)

 

 

『夜が来ると』フィオナ・マクラーレン 

夜が来ると

夜が来ると

 

 オーストラリア人作家による作品。

 75歳で一人暮らしをしているルースはある日、家の中をトラが歩き回っている気配を感じる。次の日、ヘルパーだという女性がルースの家にやってきて……。

 ストーリー自体には心臓をぎゅっと掴まれるようなやるせなさがあるのだが、 ルースの失われつつある記憶の中で、一瞬一瞬が光を放つ。

 私が頻繁に夢で見るトラは、このトラに一番近いかもしれない。

 

『オズの魔法使い』 ライマン・フランク・ボーム 

オズの魔法使い

オズの魔法使い

 

 紹介するまでもないが、『オズの魔法使い』はやっぱりライオンの表紙が多め。

 

『ウェン王子とトラ』チェン・ジャンホン

ウェン王子とトラ

ウェン王子とトラ

 

 中国人作家による絵本。村人によって子どもを殺されたトラの母親が村を襲うようになる。トラをなだめに出かけたウェン王子は、トラと生活を共にするようになり、次第に心を通わせていく……。とにかく絵が美しい! 何時間でも眺めていられるほど。『もののけ姫』がお好きな方に特におすすめ。

 

『ライオンの蜂蜜』デイヴィッド・グロスマン(未読)

ライオンの蜂蜜―新・世界の神話

ライオンの蜂蜜―新・世界の神話

 

 これは未読で、読みたいと思っている本。

 イスラエルの作家による旧約聖書・サムソン、ライオンをも引き裂いたと言われる英雄のエピソードのリテリング。

 ちなみに「新・世界の神話シリーズ」というのは世界中から選ばれし作家たちがそれぞれ神話について書く、という壮大なプロジェクトで、日本からは桐野夏生が、カナダからはマーガレット・アトウッドが参加していた。どちらも傑作だった。

女神記 (新・世界の神話)

女神記 (新・世界の神話)

 
ペネロピアド (THE MYTHS)

ペネロピアド (THE MYTHS)

 

 

The Tiger Flu / Larissa Lai(未読) 

The Tiger Flu (English Edition)

The Tiger Flu (English Edition)

 

 2018年のベストLGBTブックという記事で見つけた、この作品。

 ディストピアもののようす。

 今年はYAやグラフィックノベルなど、記事にも登場しているLGBTQ関連の作品を多く読んで、どれも良かったので、この作品に対する期待も高まるというもの。 

www.autostraddle.com

 

In Praise of Blood / Judi Rever(未読)

In Praise of Blood (English Edition)

In Praise of Blood (English Edition)

 

 ノンフィクションだけれど、こちらも気になっている一冊。今年ブッカー賞にノミネートされ、ギラー賞を受賞した作家Esi Edugyanの「2018年のカナダ人作家によるおすすめ本」で、ルワンダ虐殺を描いているらしい。

www.cbc.ca