トーキョーブックガール

世界文学・翻訳文学(海外文学)や洋書レビューを中心に、好きなことをゆるゆると書いているブログです。

The Early Stories / トルーマン・カポーティ

(ここから世界が始まる: トルーマン・カポーティ初期短編集)

その名の通り、カポーティの初期の作品が収録された短編集。ニューヨーク公共図書館のアーカイブの中から発見され出版の運びとなったらしい。初期とはカポーティが10〜20代前半の頃を指すそうで、ちなみに『真夏の航海』を書き上げた時も19歳だったと記憶している。

The Early Stories of Truman Capote (Penguin Modern Classics)

The Early Stories of Truman Capote (Penguin Modern Classics)

 

カポーティはとにかく大好物なので読まずにはいられないと、買ってすぐに読み終えたのに、シリコン谷に出張中だったからか(すごく忙しかった)飛行機で読んだからか(飛行機で読む本ってなぜか記憶に残りにくい気がする)全く内容を思い出せず、再読。

収録されているのは14作品。

 

"Parting of the Way"

二人のスリの話。いかにも南部を感じさせる話し方と、「円熟期のカポーティならこうは書かないだろうな」と個人的に思う箇所があるのが興味深い。カポーティが死ぬまで失わなかったであろう、脆く傷つきやすい少年のような魂を感じることができる。

 

"Mill Store"

8月のある土曜日、子供たちを連れてミル・クリークへピクニックへやってきた三人の女。それをMill Storeから見守る店員の女。蛇に噛まれる女の子。つくづく、女性を描くのが素晴らしく上手だと思ってしまう。

 

"Hilda"

急に高校の校長に呼び出された十六歳の少女、ヒルダ。ちょっとYA小説みたいな始まり方で、妙な新鮮さがある。ヒルダのこの後の人生もぜひ知りたくなるような作品。

 

"Miss Belle Rankin"

カポーティに多い"negress"もの。

I was young, and she was very old with little left in life. I was so young that I never thought that I would ever be old, that I could ever die.

 生活に困窮しているにも関わらず、大事にしている珍しい種類の木を決して売ろうとはしないベル・ランキン。花の描写が美しく、風流である。その木とはJaponica treeなのだけど、この描写から考えるに椿でいいのか……?

 

"If I Forget You"

将来を期待され田舎町を出ていくことになった若者。町の人気者だった彼と付き合っていたグレースは最後の待ち合わせのため、夜の町を歩く。

"Fine blue satin"のようだという夜の描写が簡潔にして美しい。将来有望な彼を引き止めるつもりも、さりとて一緒に行くつもりもないグレースが願うことはただ一つ、彼の記憶に留まり続けること。カポーティ流の青春がつまった良作。

 

"The Moth in the Flame"

刑務所から逃げ出した女と昔の友人を描いた作品で、なんとなくフィッツジェラルドが書きそうな感じ。

 

"Swamp Terror"

逃げ出した犯罪者をたった一人で捕まえようと森の中へ入る男の子の話。ゴシック風味で、自然の得体の知れなさが南部を感じさせる。

 

"The Familiar Stranger"

死期が近づいた老婆とトート閣下(本当に!)を描いた短編。死神は若く美しい青年で、妖しいほどの魅力を放つ。こちらも南部ゴシックといった趣。

 

"Louise" 

フランスからやってきた美しい転校生ルイーズ(Louise)は瞬く間に学校の"Queen Bee"となる。彼女のことが気に食わないエセル(Ethel)は嘘をでっち上げ、彼女を全寮制高校から追い出そうと企む……。少女が抱く嫉妬や憎しみがなんとも生々しいが、魅力的な少女を書かせたら天下一品のカポーティだ。

 

"This Is for Jamie"

8歳の男の子テディが公園で出会った美しい女性と可愛らしいワイヤーフォックステリア。テディは女性の息子ジェイミーを羨ましがるが……。

 

"Lucy"

こちらも"negress"もの。南部からニューヨークにやってきて、「ぼく」の家族のため働き出した黒人のルーシーはいつもブルースを歌い、南部の自然や家族を恋しがっていた。作家自身の南部を慈しみ恋うる気持ちがほとばしるような輝ける短編。

ルーシーという人物の造形・描写が魅力的で、カポーティが人生をともにした・育ててもらった女たちへの愛情もそこには存在している。

 

"Traffic West"

カポーティにしては幾分実験的な小説だが、それが当時の彼の技量ではまだうまく作用していないようにも感じられる。円熟期に同じテーマで書いた作品があれば読んでみたい。

 

"Kindred Spirits"

なんだかモームのような味わいを目指しました、というような短編だった。

 

"Where the World Begins"

妄想が止まらない女の子サリーのお話で、一言で言うと「虹を掴む男」の女子高校生バージョン。

 

カポーティの何がそんなに好きなのかと問われると、やはり鋭い観察眼なのだと思う。

この本の"Foreward"(The New YorkerのHilton Alsによる)にも書かれている通り、

Capote wrote of his wunderkind years, "was the plain everyday observations that I recorded in my journal. Descriptions of a neighbor...Local gossip. A kind of reporting, a style of 'seeing' and 'hearing' that would later seriously influence me, though I was unaware of it then, for all my 'formal' writing, the stuff that I published and carefully typed. was more or less fictional." And yet it is the reportorial voice in Capote's early short stories, here collected for the first time, that remains among the work's more poignant features- along with his careful depiction of difference. 

この他人の心を見透かすような、なんでも見抜いてしまうような眼とそれを美しい文章に書き起こす能力が彼を稀有な作家にしたのだが、それが初期の作品から変わらずそこにあったのだと実感し感嘆したのだった。

どちらかというとカポーティのファンにおすすめ。この作家らしさがいたるところで散見されるものの、円熟期に見られるような鋭さはまだ感じられないからだ。 

 

(Updated 2019-03-06)

日本語訳

ここから世界が始まる: トルーマン・カポーティ初期短篇集

ここから世界が始まる: トルーマン・カポーティ初期短篇集