トーキョーブックガール

世界文学・翻訳文学(海外文学)や洋書レビューを中心に、好きなことをゆるゆると書いているブログです。

An Island / カレン・ジェニングス: ブッカー賞ロングリストノミネート作品

 今年のブッカー賞ロングリスト、2冊目(1冊目は『クララとお日さま』)はこちら。Karen JenningsのAn Island。短いのです。120ページほどのディストピア小説。

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 ジェニングスが南アフリカ出身ということもあり(現在はブラジル在住)、アフリカが直面しているさまざまな問題を2人の登場人物を用いて寓話的に表現したとインタビューでは語られている(ただし、アフリカという大陸をまるっと1つの国として見ているわけでは決してないのだと明言もしている)。

 主人公はSamuel(サミュエル)という老人だ。独裁者政権に嫌気がさして自ら無人島で生活することを選び、23年もの間たった1人で、島の灯台守として暮らしている。時折本土から生活必需品を持ってきてくれる男たちと会話する以外、人と接することはない。

 ところがある日、若い男性が島に流れ着く。言葉が通じないことや、本土の男たちの話から、どうやらこの男性は難民らしいということがわかる。ボートが転覆し、乗っていた多くの難民が溺死するという事件があったのだ。生き残ったのはこの男性1人のみらしい。男性の手当をしたはいいが、その先どうするかまで考えていなかったサミュエルは途方に暮れる。何十年も続けてきた島での1人きりの生活で築き上げた秩序が乱され、腹立たしいという思いもある。だが、難民の男性を見ているうちに若かりし頃の本土での生活や参加していた解放運動のこと、愛した女性のことを思い出すようになる。

 この短さで、そして主な登場人物はたった2人だけという設定で、アフリカという大陸が抱えてきた苦しみや("Then came 1934 and we are told we are all-the whole region, you understand- we're all the same tribe, given the same name...so the map says who we are and where we are, but nobody ever asked us if it was right.")権力の恐ろしさ、民主主義は必ずしも解決策とはなりえないこと、暴力に加担せざるを得ない若者のやるせなさ、翻弄される国民、累積した恨みや怒りを捨て去ることの難しさ("He should be more kind, he knew, but it was difficult releasing his pettiness, the resentments and paranoias he had cultivated over the past days.")がしっかりと書き込まれていることに驚かされる。

 エッセンスをとことん煮詰めて凝縮しつつも、どこまでもシンプルかつ軽やかに描かれているので、読了後に今の日本の状況やアフガニスタンで起こっていることと重ね合わせて色々考えてしまい、気になった箇所をちらほらと読み返した。

 タイトルはThe IslandではなくAn Island。必然的に「No man is an island(人は1人では生きていけない、孤島のようには生きられない)」というジョン・ダンの言葉を思い出す。インスタを見ているとやっぱりそう思った読者がかなり多いようだった。ジョン・ダンは、「every man is the piece of continent...any man's death diminishes me, because I am involved in mankind」と続ける。

 まだ2冊しか読んでいない分際で……という感じですが、これはショートリストに残る気がする〜。カレン・ジェニングスの他の作品もKindleで読めるようになっているので、読んでみようかな。 

 みなさま、今日も明日もhappy reading!