トーキョーブックガール

世界文学・翻訳文学(海外文学)や洋書レビューを中心に、好きなことをゆるゆると書いているブログです。

『平成細雪』の衣裳が素敵

こんにちは、トーキョーブックガールです。

今日は海外文学ではなく、寒くて憂鬱なはずの1月を楽しく彩ってくれたドラマ、『平成細雪』の話を。

www6.nhk.or.jp

全4話。面白かった!

国内ドラマはほとんど見ないのだが、4話全て録画してゆっくり楽しんだ。

バブル崩壊後の90年代の関西を舞台にした四姉妹の物語、ということで、1930〜40年代の大阪を描いた原作とは異なるものの、非常に忠実にストーリーの流れを写し取っている印象。

舞台は原作と同じ、大阪船場。

原作では、大店の「いとはん(お嬢さん)」、「こいさん(末のお嬢さん)」などと呼ばれて育ち、船場言葉を話す4姉妹。

『平成細雪』ではマキオカグループという呉服商の令嬢ということになっている。

バブル崩壊後、マキオカグループは立ち行かなくなり、会社は売却。父も後を追うように亡くなり、4姉妹はそれぞれが激動の時代を力強く生きていく。

原作では阪神大水害*1がストーリーの転機となり、やがて始まる第二次世界大戦が姉妹の生活に暗い影を落とす。

ここをどう表現するのだろうと楽しみに見ていたら、なんと、ドラマは阪神大震災の少し前で終わる。これが上手いなあと思った。

阪神大震災は関西に大打撃を与えた。経済的にももちろんそうだが、何より人々の心に深い傷を残したことは確かだ。

 

「関西が華やかだった、最後の時代です」という非常に印象的なナレーションが入るのだが、とにかく関西の美しいところを余すところなく切り取っており、阪神だけではなく京都もたびたび登場。

作中を通して流れるBGM(主にピアノ)もゆったりとしていて素敵。エンディングテーマは、『G線上のアリア』。四姉妹も美しい〜♡

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蒔岡家に生まれたというプライドを保ち続ける古風な長女、鶴子(中山美穂)。

結婚して芦屋に移り、柔軟な考え方で今時の家庭を築く次女、幸子(高岡早紀)。

極度の引っ込み思案で、お見合いがなかなか上手くいかない三女、雪子(伊藤歩)。

駆け落ち事件を起こしたり、デザイン事務所を作ったりと先進的な四女、妙子(中村ゆり)。

 

そして何より素晴らしいと思ったのが衣裳だった。

原作では、上2人がすごく華やかで、下の2人はその輝きの影になってしまいがち、という描写が多々ある。

雪子のお見合いに幸子がついていくと、幸子のあまりの華やかさに見合い相手は幸子ばかり見てしまう、とか……。*2

ドラマでは、もともと美しい4人の女優にそれぞれの個性と役柄に合った衣裳をあつらえることで、それを見事に表現していた。

鶴子(中山美穂)は御寮人(ごりょん)さんということもあり、ほとんど着物。最終話ではバブル感のある柄物も。はっきりした顔立ちにもよくお似合い。

 

幸子(高岡早紀)はベージュや白、ピンクや水色を基調にした、華やかながらも既婚女性の落ち着きをたたえた洋服。丸首カーディガン率高め。パーソナルカラーでいうと、スプリングのイメージ。谷崎潤一郎の妻がモデルということで、原作でも一番生き生きしているように感じられる幸子だが、ドラマでも彼女の喜怒哀楽がいいスパイスになっている。

雪子(伊藤歩)は白いボウタイブラウスなど、正統派お嬢様ファッションが多く、清楚な黒髪に白いバレッタや、耳元のパールが印象に残る。お見合いのシーンなんて、幸子との対比がくっきり。雪子のお見合いなのに、華やかな花柄を身につけ生き生きと喋る幸子。お得意のパールのイヤリングに薄いブルーグレーを身にまとい、黙りこくる雪子。

妙子(中村ゆり) はアバンギャルドな洋服を着こなす。パーソナルカラーでいうと、オータムのイメージ。シャギーニットや、カーキ&オレンジのジレ/ワンピースが役柄にも似合っていた。

そして皆、質のいいレザーでしつらえたバッグを持っている。うーん、素敵!

 

衣裳協力ブランドはどこだろうとエンドロールに目を凝らしてみたものの、特に記載はなし。スタイリストは「宮本まさ江」氏。映画界でご活躍されている方だそう。別映画のインタビューでは、衣裳をご自身で作ったという発言もあったので『平成細雪』の衣裳も手作りされているのかも。

『トットちゃん』の衣裳も大評判だった様子。見ておけばよかった!

「カワイイ」「着てみたい」と大評判 トット・ファッションをワタシ流アレンジ! | トットてれび

 

そして、冒頭でも書いたナレーションについて。

バブル崩壊後の1990年代が「関西が華やかだった、最後の時代です」という言葉は、いろいろな意味を持っていると思う。

服装に関しても然り。昔から服飾業界では「関西では明るく派手な色が売れる」とされていたそうだが、確かに1990〜2000年代初頭までは東京と関西では売れる服の種類は全く違っていた。女子大学生をターゲットとした雑誌では必ず神戸や大阪の読者が着ている服の特集が組まれ、そういうページは東京のそれとは全く違った、華やかな魅力で溢れていた。当時子供だった私にも、その違いは明らかだったほど。

しかしその後インターネット・バブルが弾け、世の中が急速にIT化されるとともに、ファッションも世界規模で均一化されていく。同じものが同じタイミングで流行し、売れていく。地域的な流行がどんどん失われていく。関西独自の華やかさというのは「エビちゃんOL」が流行した頃から無くなっていったように思う。

 

原作は、谷崎潤一郎の関西を舞台にした作品の中でも読みやすく、4人姉妹それぞれに起こるドラマに夢中になること間違いなし。雪子のお見合い騒動を中心に展開する物語は、現代人としても共感しながら読める。

細雪 (上) (新潮文庫)

細雪 (上) (新潮文庫)

 
細雪 (中) (新潮文庫)

細雪 (中) (新潮文庫)

 
細雪 (下) (新潮文庫)

細雪 (下) (新潮文庫)

 

この名作は文学界でもファンが多いことでも知られており、金井美恵子、江國香織、綿矢りさ、三浦しおんといった作家がオマージュ作品を発表している。どの作品もとても面白いので、『細雪』と比べながら読むのがおすすめ。

 

『恋愛太平記』は東京近郊の地方都市に暮らす4姉妹の恋愛物語。オースティンと細雪の世界を、80年代の日本に融合させた感じ。母親も入れて女が5人、それぞれ思い悩んでいる。

恋愛太平記〈1〉 (集英社文庫)

恋愛太平記〈1〉 (集英社文庫)

 

『流しの下の骨』は、宮坂姉妹(そよ・しま子・こと子)を中心に、父母や弟の律も含めた家族の日常を描く。なんてことない日々の生活の中に、その家族にしか分かりあえない感情があり、まるでご近所のおうちを覗き見しているようでもある。

流しのしたの骨 (新潮文庫)

流しのしたの骨 (新潮文庫)

 

最近読んで、「ああ、面白いなあ」と思ったのが『手のひらの京』。京都出身の綿矢りさだからこそ書ける。山ではなくバリケードで囲まれているような京都という街の腹立たしさや、語尾の「ひん(〜ない)」が目立つ京都弁や、「いけず」の描写が楽しめた。凛の抱える閉塞感を身近なものに感じる若者は多いのではないのだろうか。どきっとする終わり方が、確かに蒔岡家を彷彿とさせる。

手のひらの京

手のひらの京

 

 2015年には、今人気の女性作家2人も『細雪』をオマージュにした作品を発表している。 

あの家に暮らす四人の女

あの家に暮らす四人の女

 
可愛い世の中

可愛い世の中

 

 田辺聖子も『細雪』の大ファンであると公言している。『言い寄る』から始まる乃里子シリーズは特に、関西弁の美しさに谷崎潤一郎のDNAが宿る。自身の工房でデザイナーとして働く乃里子は、妙子のようでもある。

言い寄る (講談社文庫)

言い寄る (講談社文庫)

 

多くの国で翻訳されてもいる『細雪』。あんなシーンやこんなシーンはどういう表現になっているのか。読んでみたい。

The Makioka Sisters

The Makioka Sisters

 
Las hermanas Makioka / The Makioka Sisters

Las hermanas Makioka / The Makioka Sisters

 
As Irm s Makioka (Português)

As Irm s Makioka (Português)

 

 

 

保存保存

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*1:1938年の7月3日から5日にかけて起こった、未曾有の大災害。『少年H』、『アドルフに告ぐ』など、神戸を舞台にした小説や漫画にも繰り返し登場する。

少年H(上) (講談社文庫)

少年H(上) (講談社文庫)

 
新装版 アドルフに告ぐ (1) (文春文庫)

新装版 アドルフに告ぐ (1) (文春文庫)

 

*2:ちなみに幸子のモデルは谷崎潤一郎自身の妻、谷崎松子。彼女は『春琴抄』などのモデルにもなった、谷崎潤一郎のミューズ。それはそれは華やかな大阪美人だったのだろうなと思います。