こんにちは、トーキョーブックガールです。
だんだんと涼しくなり、秋の気配を感じますね。
読書の秋ということで、秋の夜長に読みたい海外文学をリストアップしてみました。
- タイトルに「秋」が入る3冊
- 秋の月(9月、10月)が登場する3冊
- 秋が舞台の2冊
- 大恋愛を描いた4冊
- 秋の夜長にぴったりな長編5冊
- 謎に包まれた5冊
- 女ごころと秋の空な1冊
- 装丁からして《秋》な1冊
- なんとなく秋を感じる1冊
- 追記 (Sep 27, 2017) : Penguin Books UKが選ぶ、秋に読みたい小説
タイトルに「秋」が入る3冊
まずは「秋」をタイトルに掲げた小説たち。
『族長の秋』ガブリエル・ガルシア=マルケス(鼓直訳)
ガルシア=マルケスの作品はどれもこれも、盛りを過ぎて終焉へと向かう人・一族・村が描かれているような気がするが、この小説も然り。
祖母から口頭で伝えられた民話や伝説が小説家になるきっかけだったという著者らしい文章で(改行がない)、とある独裁者の一生が語られる。インコの歌う歌が国中に広まったり、政敵を丸焼きにして宴の料理にしたり。魔術的な出来事が次々と起こる中で、100年間も権力を誇る大統領。段々と老いて弱々しくなっていく様に、人生において大切なものは何なのかと思いを巡らせてしまう。
くせになる味わい。
『秋』アリ・スミス(木原善彦訳)
2017年度のブッカー賞にノミネートされたアリ・スミスの作品。2016年、Brexitで揺れ動くイギリスを舞台に、101歳のダニエルと34歳(1984年生まれ、ディストピア界の申し子ともいえるかも)のエリザベスが過ごす秋、そして2人が一緒に過ごしてきたいくつかの秋についての物語。
本を読むことの大切さについても語られていて、まさに読書の秋にぴったり。
『夜愁』サラ・ウォーターズ(中村有希訳)
第二次世界大戦後のロンドンに暮らす複数の男女を描いた作品。タイトルも素敵で(原題はThe Nightwatchだった)、創元推理文庫の装丁も美しすぎる……。本当にこういう雰囲気なんです。物語が。
戦時に生まれた愛は、生と死が隣り合わせになっているような毎日を経て、穏やかな日常へと着地する。燃え上がるような太陽を体に感じたあとにやってくる静かな夜には1人で色々と考え事にふけってしまうように、平和になったはずの現代(1947年)にこそ浮かび上がってくる感情がある。
秋の月(9月、10月)が登場する3冊
『フォークナー短編集(乾いた9月)』フォークナー(龍口直太朗訳)
雨が最後に降ってから62日、からからに干からびたような9月。
とある白人女性が黒人男性にレイプされたという噂が町に流れる。その噂の真偽を確かめることもなく、町の男たちは加害者だとされた黒人男性をリンチするが……。
閉鎖的な南部の町の雰囲気、白人と黒人の間に横たわる壁、独身のまま年老いる女性の哀切、結婚していても孤独なカップル。それぞれの抱える痛みを描いた作品。
新潮文庫の『フォークナー短編集』に収録。
『10月はたそがれの国』レイ・ブラッドベリ(宇野利泰訳)
SF作家として有名なブラッドベリの初期の短編を集めた本。『10月は〜』という通り、夏休みが終わり、街からはサーカスやカーニバルが去り、海や岸辺からは人が去り、風が涼しくなる「秋」を背景に据えた作品ばかりで、この時期に読むには最適。
SFと呼べる作品は意外にも1つもなく、「死」をテーマにした奇妙な幻想小説ばかり。 背筋が凍るような話もあれば、シュガーコーティングされたホラーもある。
Sisters / デイジー・ジョンソン
語り手の少女、7月生まれのジュライ(July)は10か月しか違わない9月生まれの姉、セプテンバー(September)と双子のように育てられたが、二人の間には決して覆らない力関係が存在する。何をするにも一緒で、ジュライはセプテンバーがやれといったことをやり、やるなと言われたことはやらない。ダークな姉妹物語。
秋が舞台の2冊
続いては、秋に起こった出来事が描かれている小説。
『未亡人の一年』ジョン・アーヴィング(都甲幸治・中川千帆訳)
幼い頃、母マリアンが23歳も年下の少年エディと浮気している現場を目撃してしまうルース。 1958年の秋、マリアンは家族と愛人であるエディを残して失踪してしまう。そして月日は巡り、1990年の秋。売れっ子作家となったルースは、エディと再会する。エディも作家になっているのだが、こちらは全く売れていない。彼はいまだにマリアンを愛し続けていて……。
様々な人の立場から綴られる、愛と再生の物語。とにかく先が読めない展開で、最高のエンターテイメント。個人的に、ジョン・アーヴィングの著書の中で一番好き。
『泣きたい気分』アンナ・ガヴァルダ(飛幡祐規訳)
通りですれ違った男と恋に落ちたパリジェンヌ。彼はどこからどう見ても素敵、誘い方もユーモアのセンスもパーフェクト。ディナーデートに出かけ楽しい時間を過ごすが、思わぬ落とし穴が待っていた……。現代のパリに住む人々の日々の暮らしに潜む孤独を描いた短編集。
どれも少しほろ苦く、タイトル通り「泣きたい気分」にさせてくれる。
大恋愛を描いた4冊
秋といえば、恋愛に関しても思いを巡らせたい。
『存在の耐えられない軽さ』ミラン・クンデラ(千野栄一訳)
冷戦下のプラハ。トマーシュは気ままな恋愛を楽しむ脳外科医だ。ある日、手術のため小さな町を訪れたトマーシュは、カフェのウェイトレス・テレザに出会う。テレザはトマーシュを追ってプラハに引っ越してくる。二人は同棲を始め、のちに結婚する。しかしトマーシュは複数の女性との恋愛をやめることはせず、特に結婚前から束縛しない関係を続けている画家のサビナとは長きにわたって関係を持った。傷ついたテレザは、それでもトマーシュのそばを離れられず……。
幾分哲学的な恋愛小説。カップル間の愛情(テレザは人生と表現するが)に関する価値感が違うと、これほど不幸なことになるというお手本のような話である。片方にとっては恋愛は楽しむものであり、代わりがいくらでもいるものである。もう一方にとっては、人生で1回しか起こらない、運命である。他人と分かり合うなんて、土台無理なことなのかもしれないと考えてしまう。
『昼が夜に負うもの』ヤスミナ・カドラ(藤本優子訳)
少しメロドラマっぽい展開がある本作品も、秋の読書にぴったり。
アルジェリア独立戦争の時代に生きた1人の男の物語。主人公ユネスはジョナスへと名を変え、持たざる者から持つ者へ変わり、「白人の中のアラブ人」から「アルジェリア人」へ変わる。自分自身でいるとは、なんと難しいことか。彼の人生はアイデンティティ模索の旅でもある。過去の後悔も取り返しのつかない失敗も、明日を作る糧となるとは簡単に言い切れないストーリー。でも最後のページは今までの葛藤や苦しみを補って余りある。
『ぼくの美しい人だから』 グレン・サヴァン(雨沢泰訳)
1980年代のアメリカ。27歳のマックスは広告代理店勤務のユダヤ系エリート独身貴族。美しい妻を数年前に亡くし、恋人も作らず仕事に精を出している。ある時、ハンバーガーショップの店員ノーラと出会う。ノーラは41歳独身、学歴もお金もない、ネイティブアメリカンの血が流れている女性である。ゆきずりの関係を1度だけ持った、はずだったのに二人は激しく惹かれあい何度も会うようになる。一見正反対の2人。マックスは、ノーラと付き合っていることを周囲にひた隠しにし、誰にも紹介すらしない。「こんな女」と一緒にいることを知られるのが恥ずかしいのだ。恋しているのは「こんな女」なのに……。
恋に落ちる相手は決して選べないという事実を思い知らされる1冊。新潮文庫の表紙(絶版?)は映画版の秋の公園でのワンシーン。
『日々の泡』ボリス・ヴィアン(曽根元吉訳)
『うたかたの日々』として出版されることも(訳としてはそれが正解)。
おぼっちゃまのコランは、ガールフレンドのクロエがかかった「肺に睡蓮が咲く」という奇病を治療するため、働きに出ることにするが何をしても上手くいかない。一方とある思想家(サルトルならぬパルトル)に入れあげている恋人シックを取り戻すため、思想家の暗殺を図る女の子アリーズ。
ピアノの音色で作るカクテルや、シナモンの香りのする雲。ファンタスティックな描写や、やがて哀しき恋人たちの運命は、寒い冬が来る前に読みたい。
秋の夜長にぴったりな長編5冊
『充たされざる者』 カズオ・イシグロ(古賀林幸訳)
ヨーロッパの田舎町に仕事でやってきた音楽家・ライダー。ホテルに到着するやいなや、次々に町の人から不条理な依頼を受ける。ライダーは戸惑いながらも、断ることができないでいる。その中で彼は自身の人生や家族、友人について想いを馳せる。
カズオ・イシグロ得意の「信頼できない語り手」による、まるで夢の中を漂っているかのような物語。
秋はシリーズ物を読み始めるのにもぴったりな季節。
『ライラの冒険』フィリップ・プルマン(大久保寛訳)
ライラの冒険シリーズは、『黄金の羅針盤』、『神秘の短剣』、『琥珀の望遠鏡』の3冊(文庫ではそれぞれ上下巻分かれているので全6冊)。『指輪物語』、『ナルニア国ものがたり』につぐイギリス人作家による児童文学の名作。
児童文学とはいえ、この物語にはキリスト教を問うという大きな伏線があるので、本当に楽しめるのは大人かもしれない。
ニコール・キッドマン扮するコールター夫人が小説から抜け出てきたような雰囲気だっただけに、映画シリーズ化が頓挫してしまったのは残念。
『夜ごとのサーカス』アンジェラ・カーター(加藤光也訳)
サーカスの華・空中ブランコ乗りのフェヴァーズ。彼女の背中にはなんと、羽が生えている。 本物なのか、偽物なのか? ロンドン、サンクトペテルブルク、シベリアと舞台を変え、視点を変え、進む物語。
白粉、嬌声、香水やほこりでむせそうになるほど視覚的で音楽的な文章である。大人のおとぎ話という感じ。
『夜のみだらな鳥』ホセ・ドノソ(鼓直訳)
*水声社はAmazonでの販売を行っていないため、リンクはありません。お求めの場合は書店までぜひ。
サーカスといえば、こちらも。仮面をつけて別人になりすまし、仮装をして自分を偽る……。不妊や奇形児への不安からホセ・ドノソが生み出した、ファミリー・サーガの物語だが、サーカスを連想させる描写がいくつも現れる。
読んでいるうちにどこまでが夢でどこまでが現か分からなくなり、自分もアスコイティア家の呪いにかかったような気がしてくる。秋にこそ楽しみたい奇妙な傑作。
『千夜一夜物語』バートン版(古沢岩美・大場正史訳)
シャーリヤル王とシェーラザッドが過ごした夜も、秋の夜長といわれるような長い長い、心地いい夜だったに違いないという気がしてならない。
勇敢なシェーラザッドが、処女を毎日殺すという残虐な王のもとにくだり、王のために語る物語の数々。あれもこれも、『千夜一夜』がもとだったのだなあという話がたくさん出てくる。思いの外エロティックなのも特徴的。
謎に包まれた5冊
そして、ミステリーやサスペンス、謎から始まる物語も、秋に読むのがぴったりな気がする。
『またの名をグレイス』マーガレット・アトウッド(佐藤アヤ子訳)
1800年代のカナダで起きた事件を題材にした長編。16歳の美少女グレイス・マークスは、使用人とぐるになって雇い主キヌア氏および女中頭のナンシーを殺害した罪に問われる。
使用人は死罪となるものの、まだ少女で精神に混乱をきたしているとみられたグレイスはその後30年間も刑務所に留置されることとなる。グレイスは本当に殺害に関与していたのか?それとも……。ある精神科医にグレイスが語る、彼女から見た事件の真相とは?
Netflixでドラマ化された作品。
『大いなる眠り』レイモンド・チャンドラー(村上春樹訳)
フィリップ・マーロウという探偵を主人公にしたハードボイルド小説の1作目。ロサンゼルスで私立探偵となったマーロウが、とある事件の捜査依頼を受けるが……。
小説そのものがまるで映画のような、独特の風合いを持つ作品。マーロウは外見から中身まで、とにかくスタイリッシュでハードボイルド。そして美女と犯罪者がこれでもかというほど登場する。
『レイチェル』 ダフネ・デュモーリア(務台夏子訳)
デュ・モーリアの代表作『レベッカ』は、エマ・ワトソンのブッククラブOur Shared Shelfの2018年9-10月お題本にも選ばれているが、姉妹作と呼ばれる『レイチェル』も同じくらい面白い。
従兄弟のアンブローズはイタリアの血が流れる女性レイチェルと結婚後すぐに亡くなった。残された手紙から、主人公のフィリップはレイチェルが殺したのではないかと疑うようになる。かなり思わせぶりな描写が続くものの、謎は謎のまま終わるのがまた秋に読むのにぴったり。
舞台はイギリスのコーンウォール地方で、庭やお屋敷、レイチェルの美しい衣装や宝石の描写の素晴らしさには目を見張る。
エマ・ワトソンのブッククラブ「お題本」リスト【最終更新 2018-09-06】 - トーキョーブックガール
『オペラ座の怪人』ガストン・ルルー(平岡敦訳)
最初に本を開いた時、音楽なしで、この「クズだらけのすったもんだ」をひたすら読むのは苦痛だろうな……という思いが頭をよぎったのは言うまでもない。
が、そこはさすがにフランスのミステリー界の礎を築いたと言われる作家ルルーだけある。エンターテイメント性に富んでおり、21世紀を生きる人間が読んでも&ストーリーを知っている者が読んでも楽しめる上に、訳者の平岡敦さんの力量もあり、とてもモダンで軽やか。
『贖罪』イアン・マキューアン(小山太一訳)
夏の暑い日、イギリスの片田舎で少女ブライオニーが仕事で家を離れている兄の帰省を待っているシーンから物語りは始まる。 夏草の匂いや涼しげな木陰と泉、触ると少しはひんやりしているであろうレンガの家や洗い立てのシーツの匂い、子供がお風呂に入ってはしゃぐ声。まだ幼いブライオニーが犯した、決して許されない罪とは……。
ジェイン・オースティンの引用から始まる作品。次第に話が哀しくなっていってもその冒頭を思い出すと、なんだか救いがある感じ。暗闇の中の光のような。
女ごころと秋の空な1冊
『女ごころ』W・サマセット・モーム(尾崎寔訳)
「女心と秋の空」という言葉があるので、この作品もリストに加えておこう。
モームの作品の中ではかなり短く、一番コミカルかもしれない中編小説。イタリアの山荘で暮らす美しき未亡人メアリーの、様々な男性との出会いとドタバタ劇が描かれている。町の情景や涼しい風が思い浮かぶようで楽しい1冊。幸せとは、比較や条件ではなく、結局心の満足度なのだなと思えるエンディング。モームって、どれを読んでも本当に面白い!
装丁からして《秋》な1冊
『昼の家、夜の家』オルガ・トカルチュク(小椋彩訳)
トカルチュクの作品はどれもなんとなく秋を感じる気がするが、こちらは日本語版の装丁に使用されている版画のタイトルもずばり、《秋》(ポーランドの画家、アリツィア・スラボニュ・ウルバニャックさんの作品で、日本のアートギャラリーに展示されていたそう。ギャラリーのオーナーさんのブログに記載があります)。
ポーランドとチェコの国境にある町、ノヴァ・ルダに住まう語り手によるとりとめのない話。昼と夜、家と外、男と女、意識と無意識など、対立しているはずのさまざまなイメージが、国の境にあるノヴァ・ルダそのもののように混ざり合い、1つに溶けていく。キノコや料理のレシピも多数登場し、食欲の秋としてもぴったり。
なんとなく秋を感じる1冊
『ゴドーを待ちながら』サミュエル・ベケット(安堂信也・高橋廉也訳)
特に季節に関して記述はないはず(何しろ舞台には木が1本だけ)だが、なぜか秋を感じ、秋に読み返したくなる作品。
アメリカでの初演では、最後まで残っていた客がテネシー・ウィリアムズとウィリアム・サローヤン(と役者の家族)だけだったという不条理演劇。一方フランスでは100回近く公演、一部は熱狂的なメディアもいたという。白水Uブックスでは、フランス版・イギリス版の違いも説明されているが、「え、そこ違ったら全く意味が違ってこない?」という箇所がいくつかあって興味深かった。意味なんて……そもそもないのかもしれないけど。初読の際はキリスト教のモチーフに目がいったのだが、最近は待つという行為に付随する色々な感情を味わうことにフォーカスしたいと思いながら読んでいる。
追記 (Sep 27, 2017) : Penguin Books UKが選ぶ、秋に読みたい小説
Penguin Books UKのインスタグラムでも、"Autumn"を掲げた小説4冊が紹介されていたのでご紹介。『秋』や『族長の秋』ももちろん入っています。
We begin #PenguinFriday5 with some aptly-titled reads to celebrate the changing of the seasons... Have you read any of these? #AutumnEquinox pic.twitter.com/GtgtMz25rZ
— Penguin Books UK (@PenguinUKBooks) 2017年9月22日
Autumn: SHORTLISTED for the Man Booker Prize 2017 (Seasonal Quartet)
- 作者:Smith, Ali
- 発売日: 2017/08/31
- メディア: ペーパーバック
The Autumn of the Patriarch (Harper Perennial Modern Classics)
- 作者:Garcia Marquez, Gabriel
- 発売日: 2006/03/01
- メディア: ペーパーバック
The Fires of Autumn (Vintage International) (English Edition)
- 作者:Nemirovsky, Irene
- 発売日: 2015/03/17
- メディア: Kindle版
夏、冬、春のリストはこちら。