トーキョーブックガール

世界文学・翻訳文学(海外文学)や洋書レビューを中心に、好きなことをゆるゆると書いているブログです。

フランス人神話: なぜ私たちはフランス女に憧れるのか?

 "Beauty Myth"ならぬ"French Myth"について。

 

 本屋さんの「ファッション」あるいは「自己啓発」コーナーで、平積みされている本。そのうち2-3冊には必ず「フランス人」という言葉が入っている。ここ数年、いやひょっとすると2000年代、1990年代もそうだったのかもしれない。

 大ヒットしてシリーズ3冊目まで展開しているアメリカ人著者(ジェニファー・L・スコット)による『フランス人は10着しか服を持たない』がいい例である。この本が出版されてからというもの、「いかに着まわしするか」、「いかにワードローブを充実させるか」一辺倒だったファッション関連本の主題は、こんまりさんの「片づけ」術の普及も相まって、「いかに持ち物を減らし、好きなものだけに囲まれる生活をするか」「いかに買わないか」にパラダイムシフトしたような気がするほどだ。

フランス人は10着しか服を持たない (だいわ文庫 D 351-1)

フランス人は10着しか服を持たない (だいわ文庫 D 351-1)

 

 「フランス人に対する憧れ」というのは別に目新しい事象ではない。例えば1982年に創刊された少女向け雑誌『olive』は早くから「リセエンヌ(フランス、oliveに限っては特にパリの女子高生)」をおしゃれやライフスタイルの目標としてきた。

 『olive』がいうところの「リセエンヌ」とは、これみよがしなおしゃれではなく、自身の創意工夫で生活を楽しむことや自分自身に満足することを指していたようである。20代のお姉さんに憧れて、背伸びして大人っぽい格好をするのではなく、今しか楽しめないおしゃれを楽しみなさい。高校生、ティーンエイジャーであるということはとても価値があることなのだから。日本にバブルがやってきて狂騒の日々が始まった頃、『olive』は「地に足のついた生活」を提案し、またバブルがはじけて価値観が一転した時には「お金の有無とは関係ない自己充足の実現」を提唱して少女たちの憧れとなった。

オリーブの罠 (講談社現代新書)

オリーブの罠 (講談社現代新書)

 

 2000年代初頭も、20年間パリで生活したという吉村葉子さんによる『お金がなくても平気なフランス人 お金があっても不安な日本人』というフランス・日本の比較エッセイが出版され、よく売れた。 

 なんでもコンビニですませる日本人、早起きして週末のマルシェで買った野菜で手料理を楽しむフランス人。生活の豊かさ=お金ではないということが面白おかしく綴られた本である。 

お金がなくても平気なフランス人 お金があっても不安な日本人 (講談社文庫)

お金がなくても平気なフランス人 お金があっても不安な日本人 (講談社文庫)

 

 そして現在、書店へ出向けば「フランス人」と銘打って出版された数多くの女性向けの本を見つけることができる。これらからは、私たち*1がフランス人女性に抱くイメージを推察することができる。たとえば、フランス人は「好きなことだけで生きる」ので後悔することはなく、 

好きなことだけで生きる~フランス人の後悔しない年齢の重ね方

好きなことだけで生きる~フランス人の後悔しない年齢の重ね方

 

仕事だけが人生ではないので「仕事に振り回されない」。 

フランス人は仕事に振り回されない~一流に学ぶ豊かな生き方のヒント~

フランス人は仕事に振り回されない~一流に学ぶ豊かな生き方のヒント~

 

 それに、「バカンスは我慢しない」 (有給休暇が世界一長いとされているのはフランスではなく、オーストリアとポルトガルらしいですが、確かにフランスの有給消化率はトップだそう)。

フランス人はバカンスを我慢しない 仕事も人間関係もうまくいく、知的エゴイズムのすすめ

フランス人はバカンスを我慢しない 仕事も人間関係もうまくいく、知的エゴイズムのすすめ

 

 料理が上手なようで「お菓子づくりは失敗しない」し、 

フランス人はお菓子づくりを失敗しない。

フランス人はお菓子づくりを失敗しない。

 

秘伝の「3つの調理法で野菜を食べる」。だからなのか、 

フランス人は、3つの調理法で野菜を食べる。

フランス人は、3つの調理法で野菜を食べる。

 

 好きなものを好きな時に食べているのに「太らない」。

フランス女性は太らない―好きなものを食べ、人生を楽しむ秘訣 (日経ビジネス人文庫)

フランス女性は太らない―好きなものを食べ、人生を楽しむ秘訣 (日経ビジネス人文庫)

 

 エレガントに生きており「小さなバッグで出かける」=荷物も少ないが 

フランス人が「小さなバッグ」で出かける理由:恋愛も子育ても老いも「エレガントな生き方」の正体はここにあった

フランス人が「小さなバッグ」で出かける理由:恋愛も子育ても老いも「エレガントな生き方」の正体はここにあった

 

その部屋には「ゴミ箱がない」=ゴミも少ない。とにかく無駄がない。 

フランス人の部屋にはゴミ箱がない おしゃれで無駄のない暮らし (PHP文庫)

フランス人の部屋にはゴミ箱がない おしゃれで無駄のない暮らし (PHP文庫)

 

 そして1割しか「お嫁に行かず」、 

フランス人は1割しかお嫁に行かない

フランス人は1割しかお嫁に行かない

 

子供が生まれても心穏やかに子育てし、「子どもにふりまわされない」。

フランス人は子どもにふりまわされない 心穏やかに子育てするための100の秘密

フランス人は子どもにふりまわされない 心穏やかに子育てするための100の秘密

 

 だからなのか、フランス人女性は「年をとるほど美しい」のだ。

フランス人は年をとるほど美しい

フランス人は年をとるほど美しい

 

 もうとにかく、ありとあらゆるジャンルの本が出版されていて、フランス人に対する憧れがこれでもかというほど投影されているのである。こうして並べてみると面白くて笑ってしまうが、気づきもあった。

 それは、アメリカ人女性によって書かれた本も多くあるということだ。ジェニファー・L・スコットも、パメラ・ドラッカーマンも、デブラ・オリヴィエもフランスで生活した経験のあるアメリカ人。その体験で発見した「フランス女って、こんなに違うのよ〜!」を、同志アメリカ女向けに綴った本なのだ。そう、フランス女に憧れているのは、何も日本女だけではないのである。ちなみに北米で生活していると、フランス人女性は憧れと一種の畏怖の対象となっていることがよく分かる(一部ヨーロッパでもそうだが、それ以上に)。

 ノンシャランとしていて、気負っているわけでもないのにいつもおしゃれ。ともすれば平凡になりがちな日常の生活を慈しんで楽しんでいる。どこかミステリアスで、もっと知りたくなる……という感じ。恋愛においてフランス人女性がライバルだったら「勝てないわぁ……」という雰囲気が漂うし、友人や知人にフランス人女性がいたら「あなたっていつも魅力的」、「どこでこの服買ったの?」、「どんなお家に住んでるの?」、「いろいろ知りたい!」みたいな空気が流れることがよくある。これは一体どうしてなのだろうか?

 個人的な意見だが、日本と同じく競争社会で世間的に「勝ち組」であることを多くの人が追い求めているアメリカでは、フランス人がいかにも「自分がいいと思ったことしかしません!」という「人の目は気にせず、自分の人生を楽しく生きている人」に見えるのではないだろうか。

 そして実際、他の国よりもかなり早い段階で成熟した国家となり、少子化や高齢化を経験しているフランスは、幸福の追求に対する経験や悟り、ノウハウも他の国より豊富なのだろう。

 ちなみに私のお気に入りの「フランス本」は、日本に住むフランス人女性西村・プペ・カリンさんによる、こちら。日本人と結婚したカリンさんが働きながら東京で子育てする様子を綴ったエッセイである。

フランス人ママ記者、東京で子育てする

フランス人ママ記者、東京で子育てする

 

 旦那様であるじゃんぽ〜る西さんのエッセイ漫画もめちゃくちゃ面白い。彼から見たカリンさん(じゃんぽ〜るさんの本では、カレンさんと表記)像も読めて、二度美味しい(?)。 

モンプチ 嫁はフランス人 (フィールコミックス)

モンプチ 嫁はフランス人 (フィールコミックス)

 
モンプチ 嫁はフランス人 2 (フィールコミックス)

モンプチ 嫁はフランス人 2 (フィールコミックス)

 
モンプチ 嫁はフランス人 3 (フィールコミックス)

モンプチ 嫁はフランス人 3 (フィールコミックス)

 

 

 新しい著書も出版されたようで、こちらも早く読みたいです。 

不便でも気にしないフランス人、便利なのに不安な日本人~心が自由になる生き方のヒント

不便でも気にしないフランス人、便利なのに不安な日本人~心が自由になる生き方のヒント

  • 作者: 西村・プペ・カリン,石田みゆ
  • 出版社/メーカー: 大和書房
  • 発売日: 2017/08/23
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
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*1:ここでいう「私たち」とは日本人に限らない。非フランス人という意味である。これらの本は様々な国で出版された本も含むからだ。