トーキョーブックガール

世界文学・翻訳文学(海外文学)や洋書レビューを中心に、好きなことをゆるゆると書いているブログです。

男性のペンネームを使った女性作家たち

 調べてみると、ジョルジュ・サンドの他にも男性風のペンネームを使い執筆した女性作家がたくさん!

www.tokyobookgirl.com

*現代日本にも中性的/男性的なペンネームをお使いの女性作家がたくさんいらっしゃるのですが、海外文学ブログなので、今回は省きます。

 

 

 おそらく一番有名なのは

ブロンテ姉妹

(Bronte Sisters)。シャーロット、エミリー、アンの3人。

 シャーロット・ブロンテは『ジェーン・エア』、エミリー・ブロンテは『嵐が丘』、アン・ブロンテは『ワイルドフェル屋敷の人々』を執筆した。

 『ワイルドフェル屋敷の人々』は読んだことがないなと思ったのだが、アマゾンで探しても見つからないし絶版OR日本では出版されなかったのだろうか。DVDならあった。

ジェーン・エア (上) (新潮文庫)

ジェーン・エア (上) (新潮文庫)

 
嵐が丘(上) (岩波文庫)

嵐が丘(上) (岩波文庫)

 
ワイルドフェル屋敷の人々 アン・ブロンテ原作 [DVD]

ワイルドフェル屋敷の人々 アン・ブロンテ原作 [DVD]

 

 才能豊かな姉妹。『ジェーン・エア』も『嵐が丘』も、舞台はハワースというイギリスの田舎町。

 激しい風が吹きすさぶ、寂しい荒野(ヒース・ムーア)が印象的。

 19世紀初頭のイギリスでは女性が働いたり執筆したりするのは良くないことだと見なされていたため、出版社が彼女たちの名前を男性名に変えて出版したそうである。

 シャーロット(Charlotte)はカラー(Currer)に、

 エミリー(Emily)はエリス(Ellis)に、

 アン(Anne)はアクトン(Acton)に。

 本人たちの意思ではなかったのですね。

 

 そして、同じくイギリスの

ジョージ・エリオット

(George Elliot)

 19世紀後半に『ミドルマーチ』という作品を書き上げ、後々にヴァージニア・ウルフに絶賛された作家。

 イギリスの中部ミドルマーチを舞台にした、複数名の男女についての物語。今新訳を読んでます(2019年〜)!

ミドルマーチ1 (光文社古典新訳文庫)

ミドルマーチ1 (光文社古典新訳文庫)

 
ミドルマーチ2 (光文社古典新訳文庫)

ミドルマーチ2 (光文社古典新訳文庫)

 

 本名はメアリー・アン・エヴァンズ(Mary Anne Evans)。彼女は20年もの間、妻子ある男性と恋愛関係にあった。男性の名はジョージ・ヘンリー・ルーイス(George Henry Lewes)。彼から執筆をすすめられて、ペンを手に取ったそうである。それもあって、彼の名を借りたのだろうか。

 男性名を使うと決めたのは彼女自身で、女性が書いた作品であるというステレオタイプなしで読んでほしいという思いからだったそう。

 

 そして、1868年にアメリカにて『若草物語』を執筆した

ルイーザ・メイ・オルコット

(Louisa May Alcott)も。

 彼女は奴隷制廃止論者、フェミニストとしても知られている存在。A・M・バーナード(Barnard)という偽名を用い、『愛の果ての物語』のような愛憎劇をいくつか書いている。バーナードの正体がオルコットであることは、1940年代まで気づかれなかったそうだ。

愛の果ての物語

愛の果ての物語

  • 作者: ルイザ・メイ・オルコット,広津倫子,Louisa May Alcott
  • 出版社/メーカー: 徳間書店
  • 発売日: 1995/10
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 彼女の他の作品は子供向けで道徳的であることもあり、作風の違いに読者が混乱しないようにという思いや、オルコットの名にとらわれずのびのびと書きたいという思いがあったのだろうか。

 

 同じように、自分の名前が有名になってしまったので、偽名を使いたかったのであろう女性作家はもう1名。

J・K・ローリング

(J.K.Rowling)

 言わずと知れた『ハリー・ポッター』シリーズの作家。彼女の本名はジョアン・ローリング

 そもそも、J・K・ローリングとファーストネームがイニシャルになっていること自体が、性別不明の名前である。今はもう女性だということが知られているが、最初は性別が分からないようJ・Kというイニシャルを使ったのだとか。

 ハリー・ポッターのメイン読者層となる少年たちが、女性が書いた物語だと分かると読まなくなってしまうかもしれないと編集者が感じ、イニシャルを使ったそう。なんとも差別的な話である。

 ローリングはまた、ロバート・ガルブレイス(Robert Galbraith)という偽名を使い、2013年に『カッコウの呼び声』というミステリーも執筆している。

カッコウの呼び声(上) 私立探偵コーモラン・ストライク

カッコウの呼び声(上) 私立探偵コーモラン・ストライク

 

 わざわざなぜ男性名を使ったのか、という非難もあったのだが、ローリングはこのように説明している。

I was yearning to go back to the beginning of a writing career with this new genre, to work without hype or expectation and to receive totally unvarnished feedback.

 

新しいジャンルの小説を執筆するにあたり、作家として新たなスタートを切りたかったのです。出版前から話題となったり、過度な期待をされたりするのではなく、完全にありのままのフィードバックを受けたかったのです。

 あ! それから話が逸れるが、ローリングといえば、最近笑った記事があった。こちら。

qz.com

 『ハリー・ポッター』に出てくる適当すぎる名称について、の記事である。

 魔法の世界にはスリザリンやらハッフルパフやら、オリジナルで素敵な名称がたくさんあるのだが、「適当すぎるやろ!」とローリングさんに突っ込みたくなるような名称もありますよという。

 1位は屋敷しもべ妖精のクリーチャー(Kreacher)だった。シリーズに出てくるクリーチャー(creatures)には大抵面白い、よく練られた名前がつけられているのに、なんでこいつだけそのままクリーチャーなの? 醜いからクリーチャーにしたの? 「太った婦人」なんていうのが出てくるんだから、「アグリー」にしちゃえばよかったのに。なんていう意見が。確かに……「キャラ多すぎてめんどいわ!」というローリングさんの疲労がかいま見えるような名前……笑。

 この記事、ローリングさんの写真の部分に「ローリングがハリー・ポッターの登場人物だったら名前はWriter Writerlyかな」なんて書いてあって、これにも笑った。

 

 ペンネームは自分の正体を隠すものでもある。

 男性風のペンネームの裏にはいろいろな理由がありますね。