トーキョーブックガール

世界文学・翻訳文学(海外文学)や洋書レビューを中心に、好きなことをゆるゆると書いているブログです。

ジョルジュ・サンドについて

 前回の記事で、アジェンデの『ゾロ 伝説の始まり』に登場するフランス人の女の子アニエス・ドゥシャン(貴族、フランス革命の影響でスペインに移住)のモデルはジョルジュ・サンドではないかと書いた。

 本当にチョイ役だし、物語の大まかな流れにあまり影響するようなキャラクターではないのだが、「アニエスはフランスに帰った後、男性の偽名を使い小説家になった。その作品は世界中で読まれている。」と書いてあったのが少し気になって。

 物語自体は1810年あたりの話で、ジョルジュ・サンドも1804年生まれ。

 サンドの本名はアマンディーヌ=オーロール=リュシール・デュパン(Amandine-Aurole-Lucile Dupin)。 頭文字が一致することもあって、そう思ったのだ。

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 このキャラクターに関して詳しい記述があるわけではないが、そのエピソードは女性が軽視されていた時代に戦った女性たちの1つの物語として、アジェンデがどうしても書きたかったのではないかなと思った。

 そして、当時(1800年代)女性名で作家をすることがどれほど大変だったかを物語っているような気もする。

 そしてそして、今日はジョルジュ・サンドの誕生日。

 なのでジョルジュ・サンドという作家について書いてみたいと思います。

 

男装の麗人、ジョルジュ・サンド

 「男装の麗人」なんて宝塚みたい。というか、宝塚でもサンドとミュッセの恋愛物語を上演したことがあったようす。2006年に。見てみたいものだ。

 後世に残された写真を見ていると、ジョルジュ・サンドはきりっとした眉と、少女のような大きい瞳が印象的な美人。

 サンドを描いた絵(ポートレート)もいくつかあるのですが、私のお気に入りはこれ。

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 トマ・クチュールによる《La Guitariste/ギター弾き(A portrait of Geroge Sand/ジョルジュ・サンドのポートレート)》。伏し目がちの、少し不遜な表情とか、美しい手が印象的。

 

華やかな恋愛遍歴

 ジョルジュ・サンドは、さる男爵と結婚して一男一女をもうけるも間もなく別居し、多数の男性と恋愛関係に。その中には詩人のアルフレッド・ド・ミュッセや医師のパジェロ、作曲家のフランツ・リストなども含まれる。

 ま〜とにかくモテモテだったのでしょうね。奇抜な格好で人々の度肝を抜くが、実は女らしくて聡明……ギャップがあり、もっと彼女のことをよく知りたいと思わせるような、素敵な女性だったのではないか。

 また、15歳年下の作曲家フレデリック・ショパンと10年近く付き合い同棲したことも広く知られている。

 サンドの娘ソランジュが年の近いショパンに色目を使うようになり、ショパンもまんざらではなかったということもあり、結局は同棲を解消し別れを選択するが、友情関係はショパンが30代で亡くなるまで続く。

  ジュリエット・ビノシュ主演のこの映画(サンドとショパンのラブストーリー)はなかなかよかった。

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 サンドが、二人でマヨルカにて過ごした日々を綴ったエッセイもある。

マヨルカの冬

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魂はいつまでも少女 

 奔放な恋愛関係や、男装して社交界に出入りしたこと、男性名を使い(ジョルジュは英語読みでジョージ)執筆したことなどを聞くと、猛々しい女性かと思いがちだが、ショパンへ送ったラブレター等を読むとそのイメージは一変する。

 *この本でラブレターをいくつか見ることができる。他にもサルトルとボーヴォワール、ユゴー、コクトーなどなど、名だたるフランスの文学界の巨匠たちのラブレターが! 読みたい放題でかなり面白い。

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 その手紙から垣間見えるサンドはものすごく繊細で初々しく、少女のような女の人なのだ。

 それは作品にも表れていて、どれも牧歌的かつ夢見がちで、まるで少女漫画の世界! 大島弓子あたりがお好きな方にはすごくおすすめ。彼女の小説は田園小説と呼ばれ、どれもフランスの田園地帯を舞台としている。サンド自身、そういった田舎で少女の頃は生活していたこともあり、自然に囲まれた素朴な生活を描きたかったのだろう。

愛の妖精 (岩波文庫)

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フランス田園伝説集 (岩波文庫)

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男装、男性風ペンネームの理由とは?

 ジョルジュ・サンドは初期のフェミニストとして有名で、政治活動をしたこともある。そして女性として商業的に成功した初めての作家でもある(フランスで)。となると、男性の名前で執筆したり、男装をしたにはさぞや深いわけがあるのだろうと思うのだが、実際のところはそうでもないようだ。

 もともと彼女は、若い頃の恋人ジュール・サンドー(Jules Sandeau)と共同で本を出版したことがあった。そのため、自身で小説を書くようになってもその名で出版するつもりだったようだ。これはサンドー自身に拒否されたため、この名をもじってジョルジュ・サンド(George Sand)としたそう。

 そして男装をしていたのは、男性しか入れなかった場所に入るため。また当時悪名高かったパリの補整されておらず、下水や汚物の多い道路を軽々と歩くため。どちらかというと現実的というか、実用的な理由からだったのである。

Il n'y a qu'un bonheur dans la vie, c'est d'aimer, et d'être aimé.   

人生にはただ1つの幸福しかない、それは愛し愛されること。

There is only one happiness in this life, to love and to be loved. 

 というのはサンドが残した名言。恋愛の数だけ傷ついて、苦しんだ彼女だからこそ、その言葉はきらめきます。

 

 ジョルジュ・サンド関連の本はいくつか出ている。読んだことがないのですが、どれも面白そう。リンクを貼っておきます。

ジョルジュ・サンド 1804‐76―自由、愛、そして自然

ジョルジュ・サンド 1804‐76―自由、愛、そして自然

 
自立する女 ジョルジュ・サンド

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200年目のジョルジュ・サンド: 解釈の最先端と受容史

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なぜ〈ジョルジュ・サンド〉と名乗ったのか?

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ジョルジュ・サンドはなぜ男装をしたか

ジョルジュ・サンドはなぜ男装をしたか

 

 

 その他、男性のペンネームを使用した女性作家についてはこちら。

www.tokyobookgirl.com

 

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