トーキョーブックガール

海外文学や洋書レビューを中心に、好きなことをゆるゆると書いているブログです。

『ザ・ヘイト・ユー・ギヴ あなたがくれた憎しみ』 アンジー・トーマス

[The Hate U Give]

メンバーの投票で決定した2018年5-6月のOur Shared Shelf(エマ・ワトソン主催のブッククラブ)お題本は2冊あるのだけれど、1冊目は『ザ・ヘイト・ユー・ギヴ』というYA小説!

そろそろ読み始めようかなと思った頃、偶然書店で日本語訳を発見。今年の3月に出版されていたらしい。せっかくなので日本語訳を読んでみた。

ザ・ヘイト・ユー・ギヴ あなたがくれた憎しみ (海外文学コレクション)

ザ・ヘイト・ユー・ギヴ あなたがくれた憎しみ (海外文学コレクション)

 

これは若干30歳の著者アンジー・トーマスのデビュー作である。ベルヘブン大学でクリエイティブ・ライティングを学んでいる時に執筆を始めた作品で、多くの出版社が出版権獲得に名乗りを上げたとか。やっぱり創作学科からデビューする作家は多い。そして確実に面白い。 

タイトルの"The Hate U Give"はヒップホップ好きの方なら聞いたことがあるだろう言葉。サグ(ギャングスタ)として知られた伝説のアーティスト2pacの発言から来ている。

"Thug Life"とは25歳でこの世を去った2pacが結成したグループの名前でもあり、死後に発表されたベストアルバムのタイトルでもあるのだが、彼はその意味をこう説明した。

"The Hate U Give Little Infants F**s Everybody"

子どもに植えつけた憎しみが社会に牙をむく*1

カルマのようなもので、憎しみを知ってしまった子供たちはやがて成長し憎しみを与えた人に復讐するだろう、ということ。

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この物語の主人公スターはいわゆるゲットーに住みながらも、白人だらけのお金持ち学校に通う高校生。

ある日ゲットーのパーティーに参加したスターは、幼馴染のカリルの車で帰路につく。しかし車が途中で白人の警官1-15に止められ、いかにもギャングのような風貌のカリルは何も抵抗していないのに武器を持っていると勘違いされ射殺されてしまう。

その後、カリルは麻薬の売人でギャングだったらしいという報道があり世間は「殺されても仕方がないやつだったらしい」という風潮に染まっていく。警官1-15の父親もニュースに登場し、「息子は悪いことはしていない。ただ安全に妻と子供の待つ家に戻りたかっただけだ」と訴える。

しかし、カリルが武器を所持していなかったと知ったゲットーの住人たちは警察に対するデモを繰り広げる。

スターは証言を求められるのだが、法廷に立つと決意するまでの彼女の心の揺れも「読ませるポイント」である。

アメリカの社会が抱える人種差別、階級といった問題とともに、スターのアイデンティティの問題も語られるのだ。

スターはゲットーで生まれ育ち、父親は元ギャングである。しかし裏社会から足を洗った父親は子供たちの安全を確保したいという思いから、スターたちを「家から離れた白人コミュニティのお金持ち学校」に通わせている。結果、スターはゲットーや家の中では黒人の英語を話し、学校では白人の英語を話しているのだ。ボーイフレンドもお金持ちの白人。「ゲットーでのスター」、「学校でのスター」をうまく演じわけないといけないというプレッシャー。誰にも本当の自分は見せられないという悲しみ。

それでも自分の声で戦おう、憎しみの連鎖を終わらせようとするスターは魅力的で応援したくなる。

現代アメリカの抱える社会問題も理解できる、大人にこそおすすめというべきYA小説だった。

 

主人公は現代の高校生なので、ビヨンセやテイラー・スイフトがよく例えに出てくるのだけれど、それ以上に90年代のブラック・カルチャーが頻繁に登場する本だった。スターとボーイフレンド・クリスのお気に入りのドラマはウィル・スミスを一躍スターダムへ押し上げた『ベルエアのフレッシュ・プリンス』だし。 

Fresh Prince of Bel-Air - The Complete Series [DVD] [Import]
 

タイトルの由来となっている2pacはもちろん、

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Thug Life: Vol. 1

Thug Life: Vol. 1

 

名前は出てこないものの「90年代の怒れる歌姫」なんて描写もあって、ローリン・ヒルやアリーヤ、ミッシー・エリオットを指しているのかなと思ったり。

この辺のディーバの楽曲は梅雨の日にもぴったりでいいですよね。


Lauryn Hill - Ex-Factor


Aaliyah - Try again

 

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*1:『ザ・ヘイト・ユー・ギヴ』の日本語訳より。素晴らしい訳。