トーキョーブックガール

海外文学や洋書レビューを中心に、好きなことをゆるゆると書いているブログです。

The Gunners / Rebecca Kauffman:自殺した幼馴染が抱えていた秘密とは

発売日: 2018年3月15日

Rebecca Kauffman(レベッカ・カウフマン)の第2作目、The Gunnersを読んだ。 

The Gunners: A Novel

The Gunners: A Novel

 

Esquireの『3月時点での2018年ベスト本』に入っていた作品。 

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いい書評もいくつか読んだので、楽しみにしていたのである。

 

 

あらすじ

舞台はミシガン州、バッファローの郊外。こんなことを言うのもあれだが、非常に陰鬱でうら寂れた街だ(読んでくださる方の中に、バッファロー在住の方がいらっしゃったら本当にごめんなさい!)。バッファロー出身の人と話していると、"this city is dead(この街は死んでるから)"と言われることが多いのが個人的に記憶に残っている。

The Gunnersではこのように表現されている。 

Only half the homes on their block were occupied. The others had boards for windows, liquor bottles smahsed into the front porches, stray cats shitting in overgrown lawns.

 

人が住んでいる家は、この街区に建っている家の半分のみだった。もう半分の空き家は窓に板が打ち付けられ、玄関のポーチには粉々になった酒の瓶が散らばっていて、伸び放題の芝生には野良猫が糞をしていた。

アメリカの北東部。エリー湖という巨大な湖のほとりにある、1年の半分は寒さで凍っているような街である。

ちなみに街のもっと北にはオンタリオ湖というこれまた巨大な湖がある*1。そしてそちらにはナイアガラの滝があり、反対側にはカナダがある。

この街の高校を卒業した若者は、勉強ができるのであればデトロイト近くのミシガン大学へ旅立つ。「この環境から脱したい。ミシガン大学へ行っても何も変わらない」と考えている子はカナダへ渡りトロントの大学に行くイメージがある。つまり、一生この街にいたいと考える子はそれほど多くないのではないかな、という街なのだ。

 

The Gunnersの主人公であるマイキー (Mikey) はしかし、バッファローに残った人である。

そんなマイキーは、ある日職場の同僚から「君と同い年で、同じ高校出身の人が自殺したよ。サリー (Sally)という人らしいんだけど、知ってる?」と聞かれる。

知っているも何も、幼稚園の頃から高校の途中まで、マイキーの親友だった女の子である。

マイキーとサリーを含む近所の子供6人はいつも一緒に遊んでいた。

リーダー格のアリス (Alice)、太っちょのサム (Sam)、イタリア系のジミー (Jimmy)、ピアノが大好きなリン(Lynn)、物静かなサリー、みんなより1つ年下のマイキー

ポストに"The Gunners"というシールの貼ってある空き家を「秘密基地」にしていたので、自分たちのことを"The Gunners"と呼んでいた。

マイキー以外は皆高校卒業時にバッファローを出ている。

マイキーはサリーが亡くなったことを4人を伝え、4人は葬式に出席するためにバッファローに帰ってくる。

 

アリス、サム、ジミー、リン、マイキーは久しぶりに集まると互いの近況はもちろん、サリーについて話し出す。

サリーはハイスクールのジュニアの年が終わる頃(日本の高校だと高二)、突然"The Gunners"のグループから抜け、誰とも話さなくなった。

その理由は誰にも分からず、道でサリーを見かけても無視されるばかり。

どうしてサリーはグループから抜けたのか?

どうして誰とも話さなくなったのか?

サリーの葬式に集まったマイキー以外の4人は、「実は自分が原因だったのではないかと思う」と言い出す。

そしてお互いに秘密を打ち明ける…。

 

誰にだって秘密はある

マイキーはもともと片目が見えない。

高校を出てから12年、今は猫のフライデー (Friday)と暮らしている。

彼は善良な青年ではあるが、愛が何なのかを知らない。幼い時から父親と二人暮らしで、母親がどういう人物なのかは聞いたこともなく、父親からの愛情を感じたこともない。

心の支えは、もうこの街にはいない"The Gunners"の4人から時々送られてくるメールだけ。

 

ジミーは19の時にロサンジェルスに引っ越し、投資で一財産儲けている。

サムは21の時に結婚し、ジョージアで教会にその身を捧げている。

リンはニューヨークの音大に通ったが、今はペンシルヴァニアの小さい町に暮らしている。ボーイフレンドとアルコール依存症患者救済協会*2を営んでいる。

アリスはミシガン大学に通っていたが大学院生と駆け落ちし、結婚。その後離婚した。現在はレズビアンである。ヒューロン湖に小さいが成功したマリーナを持っている。

  

バッファローから出たことのないマイキーにとっては想像もできないような生活。

メールを見ては、皆が暮らす新しい世界を想像してみる。どれほど華やかで、どれほど楽しいのだろう。

マイキーは30歳になった年に「もう片方の目もじきに見えなくなるだろう」との診断を受けた。今は盲目になるときに備え、点字を勉強したり目をつぶって料理する練習をしている。

だが、そのことは4人には言い出せないでいる。楽しい生活を送っている4人が、自分を見たらどう思うのだろう。バッファローで変わらない生活を営んでいる自分は、4人から見たらいかにも垢抜けない人間なのではないか。

そう思いながらバッファローに戻ってきた4人を出迎えるのだが、そこで判明するのは4人にもそれぞれ、1人では抱えきれない秘密があったということ。

 

高校卒業以来顔を合わせていなかったので、打ち明けられなかったのだ。メールでは最近あった嬉しいこと・楽しいことを報告するばかり。

お互いが、「皆は素晴らしい人生を送っている」と思い、自分の苦しみは共有できないでいる。

 

そしてもちろん、サリーのことも。

突然サリーが友達ではなくなったことは、5人それぞれの心に深い傷を残している。そのことを再確認し、話すことで前に進もうとする物語である。

 

人は変わるのか?

何度も登場するのが、「人は変わっていく生き物なのか」という問いかけ。

環境が変わり、生き方が変われば人間は変わってしまうのか?

最初にバッファローに到着したアリスは、マイキーに向かって

Been strange, hasn't it? Seeing where all of us ended up. How all of us changed.

変だよね。こんな大人になるなんて。みんな、こんなに変わってしまうなんて。

と言う。

Jimmy? Going from a shy math nerd to this wealthy LA hotshot? And Sam, big old tough guy that he was when we were young, everything Fuck this, screw that. Now he's this churchy guy, God bless at the end of all his emails? Well, and Sally, of course. She went from so close to us, to...whatever she was at the end.

ジミーは、内気な数学オタクからリッチなLAの独身貴族になった。サムなんて、子供の頃は反抗してばかりのやんちゃだったのに今は教会に熱心に通って。メールはいつだって「神の祝福を」で締めくくられてる。サリーだって、ね。すごく仲が良かったのに…なんで自殺したのかすら分からない。

ずっとバッファローに住んでいるマイキーは、こう反論する。

I think at various times in life we're either more or less true to who we really are. But that essence, that who we are...I don't know that that ever changes.

人生では、自分のままでいられる時と、そうじゃない時があると思う。でも、その本質というか「自分自身」っていうものは決して変わらないんじゃないかな。

最終的には5人は今までできなかった話を打ち明けあい、「本質的に人間は変わらないのではないか」という結論に落ち着く。

 

ミステリーではありません

「サリーはなぜグループから抜けたのか」、「サリーはなぜ自殺したのか」という大きな謎はあるものの、この小説はミステリーではない。

残された5人にはそれを想像することしかできない。

それでも、話し合うことでお互いの傷を癒し、サリーの存在に感謝することができる。

サリーを守ることができなかったという後悔を抱えて生きるのではなく、サリーに与えてもらった愛情に感謝して生きていくことができる。

その過程が非常に美しくて、あっという間に読み終えてしまった。

映画にしても素晴らしい作品になるだろうな…という感じ。

 

増えるクリエイティブ・ライティング(創作科)出身作家

著者のカウフマンさんのデビュー作は2016年のAnother Place You've Never Been*3。ちなみにカウフマンさんはオハイオの「田舎」出身の方だそうで、大学では音楽を学び、クリエイティブ・ライティングのMFA*4(修士、Master of Fine Arts)を取得している。

クリエイティブ・ライティングとはつまり創作科なのだけれど、最近の英語圏の作家はこの創作科出身者が非常に多い印象がある。

カズオ・イシグロ、イアン・マキューアン、アン・エンライト、2017年ブッカー賞を受賞したジョージ・ソーンダーズ(あ、ここまでは別に「最近の」でもないですね)、ジュノ・ディアズ、エリザベス・ギルバート、『Everything, Everything わたしと世界のあいだに』のニコラ・ユンも。

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創作科出身者の作品は文体が洗練されている印象があるし、長きにわたって活躍する方が多いなあと感じることも多い。

やっぱり学校でみっちりと創作とは何かを学ぶのはいいことなのかもしれない。

もし子供が生まれて「将来作家になりたい」なんて言いだしたらとりあえず創作科に入ることを勧めてみようと思った今日この頃。「そんなことを勉強したって意味がない」なんて言わずにね。

 

みなさま、今日もhappy reading!

 

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*1:日本で一番大きい湖・琵琶湖の23倍もの大きさである。

*2:Alcoholics Anonymous

*3: 

Another Place You've Never Been

Another Place You've Never Been

 

*4:

artandlogicseminar.com