トーキョーブックガール

世界文学・翻訳文学(海外文学)や洋書レビューを中心に、好きなことをゆるゆると書いているブログです。

ある晴れた日に: 『蝶々夫人』観劇

 
夏頃、発売と同時にチケットを購入したので、センターの5列目。
素晴らしい美声を名一杯堪能できました。
私が観劇したのは、森谷真理さんらキャストの日。
『蝶々夫人』はオペラの中でも大好きな演目で、去年はMETライブビューイングにて、映画監督アンソニー・ミンゲラ演出、クリスティーヌ・オポライス主演のものを観劇。
この世界に入り込んで何度も涙しながら観たので、私にしては珍しくディテールをよく覚えていたこともあり、いろいろと比較して楽しむことができました。
 
やっぱり日本人が手がけたものだから、いつも感じる『フェイクジャパン』感が全くない!笑
『フェイクジャパン』感、好きなのですけれどね。こういう中国も韓国も日本もごたまぜになったような、オリエンタルなイメージは、日常ではもう見かけることのないものだから。
METは、坊ちゃんがお人形さんだったなあ……。
 
美しい桜の木(蝶々夫人が枝を揺らすとひらひらと花びらが舞う!)や、絹の着物、髪型や蝶々夫人の息子の衣装まで、正しい日本が演出されているのが感動的で、幕が開いた瞬間から小物や大道具の美しさに陶然となる。
衣装デザイナーはコシノジュンコさん。
衣装デザインをお願いしたいと言われた時に、『蝶々夫人』を見て(そこに繰り広げられていた間違った着物の世界に)絶句したというお話がパンフレットに載っていました。
 
森谷真里さん演じる蝶々夫人は、純粋さが押し出されていたように感じた。よく伸びるソプラノ。
蝶々さんは、「15歳で、もうおばあさんよ」と言ったり、周りの親戚らには「彼女の花の盛りは過ぎた」なんて言われていて、なんというか家も落ちぶれて、ピンカートンで手を打ったというイメージもあるのだが、それでも彼にほだされて(?)、かなり真剣に彼を愛している。それは自分の生きる道を見失いたくない、愛される自分でいたいという心の叫びでもあるのだろう。
クリスティーヌ・オポライスの蝶々夫人は狂気を強く感じたので、かなり印象が異なる。
 
ピンカートン役の宮里直樹さんは美しいテノールが、シャープレス役の今井俊輔さんは深いバリトンが、心地いい。
宮里さんは見た目も、背は高くないものの恰幅が良くお化粧やカツラも良くお似合いで、日本人ではないのかと思ったほど。
声は楽器なのだとしみじみ感じた1日でした。
 
『蝶々夫人』を観ていつも思うこと。子供の名前は?
と尋ねるシャープレスに、蝶々さんがこう答える場面。
Oggi il mio nome è Dolore.
Però dite al babbo, scrivendogli,
che il giorno del suo ritorno,
Gioia, Gioia mi chiamerò!
 この子の名前はドローレ(苦悩)
でも彼が戻ってくる日には
この子の名前は
ジョイア(歓喜)に変わるわ
これは原作のロングの小説にもそのままでてくるエピソードだそう。
Madame Butterfly

Madame Butterfly

 
が、個人的にはなんとも言えないイタリアっぽさを感じるセリフです。
いずれにせよ、日本人女性はこういうこと言いそうにないですね笑。
 
恋愛や結婚においては、蝶々さんのように、ある意味馬鹿のように、純粋に相手を信じる気持ちが大切なのではないかと思うこともある。
 
同じように異国の地の女性との恋愛を描いた『舞姫』や、
現代語訳 舞姫 (ちくま文庫)

現代語訳 舞姫 (ちくま文庫)

 

モームの"P. & O."を読み返したくなりました。

Far Eastern Tales

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