トーキョーブックガール

海外文学や洋書レビューを中心に、好きなことをゆるゆると書いているブログです。

LESS / アンドリュー・ショーン・グリーア:面白うてやがて悲しき

ヴィエト・タン・ウェンに続き、ピューリッツァー賞関連をもう一つ。アンドリュー・ショーン・グリーアによるLessを読んだ。2018年のピューリッツァー賞フィクション部門受賞作。

The Pulitzer Prizes

 

アンドリュー・ショーン・グリーアは初めて読む作家だが、ニューヨーク・タイムズの記事によると「ジョン・アップダイク、マイケル・シェイボン、デイヴ・エガーズ、ジョン・アーヴィングがおすすめする作家」という折り紙付き。これは読み逃せないと思い手に取ってみたら、私の過度の期待をも上回るいい小説だった!

Less (Winner of the Pulitzer Prize): A Novel

Less (Winner of the Pulitzer Prize): A Novel

 

 

 

アーサー・レスという男

タイトルの"Less"は主人公アーサー・レス(Arthur Less)の名前から。彼は50歳に差し掛かった売れない小説家で、一言で言うと冴えない男だ。

仕事:若い頃出版した小説はそれなりの話題を呼んだものの、49歳となった今では世間に忘れ去られている。

恋愛:かなり長い間つかず離れずの関係だった年下の恋人フレディー(Freddie)が突然別の男と結婚することになり、結婚式に招待される。

フレディーの父親カーロス(Carlos)は元々アーサー・レスの友人だったので、結婚式には共通の友人も多く訪れるだろう。「フレディーと長く付き合っていたのに結局うまくいかなかったのか…」と思われるのが嫌で、結婚式を欠席することに。そこで世界中から来ていた仕事の依頼を全て引き受けて長い出張に出ることを決意する。

目的地はニューヨーク、メキシコ、フランス、ドイツ、モロッコ、南インド、そして日本(京都)。行く先々でアーサー・レスを待ち受けているのは、彼からすると奇妙な人々や屈辱的な出来事ばかり。49歳から50歳になる年、ミッドライフ・クライシスを迎えているように見えるアーサー・レスは、まさに踏んだり蹴ったりな日々を送ることになる。

 

面白ポイントをいくつかご紹介

このアーサー・レスという男、いたって真面目に生きている。

本人は決してユーモアあふれるタイプではないのだけれど、努力や期待が空回りしていく様が面白い。

1. 仕事のオファーが変

世界中で引き受けた仕事の依頼がもう変なものばかり。ニューヨークでは自身の作品はそっちのけで著名作家にインタビューさせられるし、イタリアではとある授賞式に参加するものの著書がノミネートされたのは作品が素晴らしかったのではなく翻訳者が超優秀だったから(supertranslation)だと判明するし。それなりにプライドを持って仕事に臨んでいるアーサー・レスが気の毒になるけれど、本人の勘違いも含め「あるある!」と笑える。

2. アーサー・レスはダメゲイ(bad gay)

アーサー・レスがゲイ男性ということで、そのセクシャリティにまつわる皮肉もたくさん。

彼は自分が"the first homosexual ever to grow old(世界で初めての老いるホモセクシャル)"なのだと感じたり*1、ゲイにまつわる賞を受賞したときは

"How did they even know I was gay?"

He asked this from his front porch, wearing a kimono.

「そもそも、どうして僕がゲイだって分かったのさ?」

レスはキモノをはおった姿で、フロントポーチに立ったまま尋ねた。

なんて、「ゲイのステレオタイプ」みたいな格好で言ったりする。

挙げ句の果てに、友人には「ゲイ雑誌が君の小説をレビューしないのは、君がbad gayだからだ」なんて言われてしまう。「こちらの世界の美しいものを見せてあげるのがゲイの使命なのに…君の小説の登場人物は見返りもなく苦しめられてる。君のことをよく知らなかったら、共和党支持者なのかと思ってたところだよ」と…。

アーサー・レスはいわゆるダメンズならぬ、ダメゲイらしいのだ。

3. ナレーターは一体誰? 

この小説は、

From where I sit, the story of Arthur Less is not so bad.

私からすると、アーサー・レスの物語はそう悪くない。 

という言葉で始まる。三人称で書かれているけれど、時々差し込まれるナレーターとアーサー・レスのエピソード。最初こそナレーターが誰なのかは気になったものの、ストーリーの面白さに引き込まれすっかり忘れていて、最後に明かされた時に「!!!」となった。最後の一文もユーモアが効いていて、すごくいい。この面白さを失わずに日本語に訳すのは難しそうだけれど…。

 

コメディは過小評価されている

というのは個人的な意見で、自分も含めてのことなのだけれど、この作品がピューリッツァー賞を受賞したと聞いた時にあらすじを読んで、「え、このコメディが?」と思ってしまったのだった。

どこかでコメディは純文学ならずと偏見を持っているのだろうか、と反省しきり。

また、Lessは面白いだけではなく、アーサー・レスが半生を振り返り過去の恋人から学ぶ姿を描いている。後半は「なぜここで?」と自分でも思うような箇所で何度か涙してしまった。それはきっとアーサー・レスの人生を通じて自分の半生をも振り返ることができたから。人生って、愛って素晴らしい!と思える。

ヘテロ・LGBTQ関係なく沢山の友人におすすめしたくなった、皆が楽しめる小説。最近LGBTQ関連のフィクションはよく翻訳されているし、この作品も比較的早く日本語版が発売されるかも。『おっさんずラブ』が空前の大ヒットとなった日本でも、もちろん愛される作品だと思う。

 

遅ればせながらAudibleデビューした話

ちなみに、去年のReading Challengeの1つにしていたオーディオブックデビュー。2017年は結局デビューできなかったのですが、このLESSでようやくAmazonのAudibleデビュー♡

この小説はコメディということもあって、かなり面白くてあっという間に聴き終えてしまった。音楽を聴いていることが多いし、犬と一緒の時間や運動中は何も聴かない主義なので、Audibleは聴く時間を見つけるのが結構難しいと思って躊躇していたのだが、今は

・飛行機など長時間の移動

・料理している時

はAudible用の時間にしている。Amazon.comの方のAudibleを契約したのだけれど、1ヶ月$14.95で1冊は聴けるのが素晴らしい。声優さんもものすんごく素敵なお声の方ばかりで、読書がより楽しくなりました。

 

続けて、クラスナホルカイ・ラースローの『北は山、南は湖、西は道、東は川』を読んだら、偶然こちらも京都が舞台だった。別途レビューを書く予定。

北は山、南は湖、西は道、東は川

北は山、南は湖、西は道、東は川

  • 作者: クラスナホルカイラースロー,Krasznahorkai L´aszl´o,早稲田みか
  • 出版社/メーカー: 松籟社
  • 発売日: 2006/03
  • メディア: 単行本
  • クリック: 10回
  • この商品を含むブログ (5件) を見る
 

保存保存

保存保存

保存保存

保存保存

保存保存保存保存

保存保存

保存保存保存保存

保存保存

保存保存保存保存

保存保存

保存保存保存保存

*1:これにはAIDSの影響もあって上の世代が少ないという悲しい事情もあるのだが。