トーキョーブックガール

海外文学や洋書レビューを中心に、好きなことをゆるゆると書いているブログです。

Las Manos Pequenas / アンドレス・バルバ

(小さな手)

最近、アンドレス・バルバ(Andrés Barba)にはまっている。

なんと、先日のヨーロッパ文芸フェスティバルで来日していたのですね。しかもヨーロッパハウスで講演していたのか〜! どのみち、この日は行けなかったのだけれど、是非話を聞いてみたかったな……残念。

Las Manos Pequeñasは、小さな女の子たちの残酷な物語である。 

Las manos pequenas

Las manos pequenas

 

主人公は7歳のマリーナ(Marina)。ある日、交通事故で両親を失い、自身も大怪我を負う。両親が死んだことは理解できているものの、決して泣き叫んだり悲しんだりといった様子は見せないマリーナ。怪我が回復するころ、身寄りのなくなった彼女は女の子しかいない孤児院に連れて行かれる。 

そこでは、同じような年頃の女の子たちがマリーナを待ち受けていた。新しく入ってくる子は珍しい。ほとんどは生まれた時から、そうでなくても物心がつく前から孤児院で育った者ばかり。女の子たちは、羨望と驚異を覚えながらマリーナが何気なくする話に耳をかたむける。パパとママがパリのディズニーランドに連れて行ってくれたこと、色々な映画を一緒に見たこと、欲しいものを買ってもらったこと。どれもこれも、外の世界を知らない少女たちにとっては信じられないような夢物語だ。

最初は仲良く過ごしていたものの、マリーナのことを「自分たちとは異なる存在」だと認識した少女たちは、マリーナが大切にしている人形を隠したり、こっそり乱暴をしたりと、次第に彼女をいじめるようになるのだが……。

 

アンドレス・バルバはスペイン・マドリード出身の若手作家で、多くの女性作家(クラリセ・リスペクトールなど)の作品に影響を受けたこともあり、どちらかというと自分の作品は女性的なのではないかとよく語っている。この物語もまだ幼い少女たちの「自分でも説明できない、名前をつけることのできない感情」ゆえの残酷性をおそろしいほどに的確にすくいとっている。

たとえば、マリーナや少女たちが経験する感情としては、嫉妬や憧れ、欲望、劣等感などがある。でもそのどれも、言葉としては文中に登場しない。その代わり、「すき」か「きらい」かのどちらかで、すべては判断される。あの子たちはわたしのことを好き、あの子たちはわたしのことが嫌い。そのもどかしい感じ、表現することができないのに感情は確かに心の中にあるというおかしな気持ちは、おそらく全ての大人が子供だった頃に経験したことがある何かで、だからこそ読者はダークな物語にするりと入っていけるのだろう。まるで、子供時代のことを思い出させてもらえているような気分になるほどだ。

昼と夜とでは全く別の世界が展開されるというエピソードも、子供の世界の恐ろしさを際立たせる。

1960年代のブラジルの孤児院で実際に起こった事件をもとに書き上げたということだが(下記リンクを参照)、なかなか幻想的で毒があり、やみつきになってしまいそうなストーリーテリングだった。

Andrés Barba retrata en "Las manos pequeñas" la violencia infantil | Público

 

物語はマリーナの視点(三人称)と少女たちの視点(一人称)で交互に語られるのだが、少女たちの視点=私たち(nosotros)ということや、次第にエスカレートしていく少女たちだけの世界が描写されていることから、フランク・ヴェデキントの『ミネハハ』を思い出す。どこからともなくやってきて、森の中で自分たちだけの世界を築き上げ、時が来れば去ってゆく女の子たち。

と考えながら読んでいたら、実際に、子供たちが歌う歌として「ミネハハ」という単語も作中に登場した。 

ミネハハ

ミネハハ

  • 作者: フランク・ヴェデキント,市川実和子
  • 出版社/メーカー: リトルモア
  • 発売日: 2006/10/03
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
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「ミネハハ」は、アメリカのインディアン神話『ハイアワサの歌』のヒロインの名前に由来する。「笑う水」という意味で、インディアンの英雄ハイアワサの妻である。

ハイアワサの歌

ハイアワサの歌

 

 

本作は日本語訳は出ていないが、英語訳はあり(装丁が原書よりかわいい)。

Such Small Hands

Such Small Hands

 

日本語訳されているバルバの作品は、この絵本だけのよう。

ふたりは世界一!

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