トーキョーブックガール

海外文学や洋書レビューを中心に、好きなことをゆるゆると書いているブログです。

『フランケンシュタイン』と『メアリーの総て』とFrankenstein in Baghdad

(バグダッドのフランケンシュタイン)

大人になってから初めて『フランケンシュタイン』を読み返した。

子供の頃は、この話について、まあなんと理解できていなかったことか! 今だって理解できているのかと言われれば疑問が残るが、幼い時分はどこまでも追ってくる怪物がただただ恐ろしく、こんなに哀しい話だということは読み取れなかった。

フランケンシュタイン (新潮文庫)

フランケンシュタイン (新潮文庫)

 

副題は「現代のプロメテウス」。土と水で人間を作り上げ、ゼウスに黙って天界の火を盗んで人間に与えた男神だ。人間は火で文明を築き上げた代わりに、戦争をするようにもなってしまった。

怪物を創造するものの、その存在が末恐ろしくなり無視を決め込む若き科学者ヴィクター・フランケンシュタイン。そして彼の後を追いかけ続け、孤独なあまり伴侶が欲しいと頼み込み、願いが聞き入れられないと次々とヴィクターの周りの人間に危害を加える怪物。フランケンシュタインはプロメテウスと同じく、後悔先にたたずのとんでもないことをしでかしてしまったのだ。

巨大な体躯、醜悪でおよそ人間のものとも思えぬ面相。ひと目でわかりました、これはあの唾棄すべき生き物、わたしが生命を与えてしまった、あのおぞましい悪魔だ、と。

創造主に憎まれる怪物は哀れである。

おれはまだ苦しみ足りないというのか、もっと不幸になれというのか? 生きていくことは苦悩の積み重ねでしかないが、それでもこの生命はおれにとって尊いものだ。だから、守る。

愛されることを願い、夢見て、どれほど努力をしても拒まれ、誰からも顔を背けられる。

新潮文庫にはメアリー・シェリーによるまえがき(1831年版)が収録されていて、物語がどのようにして生まれたか、バイロン卿の別荘での出来事(不朽の名作『フランケンシュタイン』と『ドラキュラ』が生まれた記念碑的な夜)について詳しく記載してある。また、恋に落ち、駆け落ちをするに至った妻&子供持ちの夫・詩人のパーシー・ビッシュ・シェリーについても驚くほど愛情深く描写されている。

夫は、結婚当初から、わたしが両親の名に恥じない娘であることを証明するためにも、わたし自身が名を挙げることを強く望んでいた。文学の世界で名声を獲得するよう、常に励まし、強力に後押ししてくれた……[略]……共に過ごした伴侶には、この世では、もう二度と会うことはかなわない。けれども、それはわたしの個人的な感傷である。

そしてその夫パーシー・ビッシュ・シェリー自身による序文(1818年 初版)もついている。こちらも、妻への思慕に溢れている。どちらも読めて満足。

さて、この作品を手に取った理由は二つある。

 

『メアリーの総て』12月に公開

一つは、『フランケンシュタイン』の著者メアリー・シェリーの生涯を描いた映画が12月に公開されるから。楽しみ! トレーラーからして素敵で夢中になってしまった。 

gaga.ne.jp

たったの16歳で父の知人だった妻子あるパーシーと恋に落ち、全てを捨てて駆け落ち。赤ちゃんを産むも、すぐに亡くなり、その後パーシーの妻が自殺。晴れて正式に結婚するものの……という、「めでたしめでたし」からは程遠い人生を生きた人という印象があったのだが、映画ではどういうふうに語られるのだろう。早く観たい。

エル・ファニングは眺めているだけでため息が出るような透明感。パーシー役のダグラス・ブースも素敵。二人とも若い! と驚いたが、当然か。駆け落ちした時、パーシーだってまだ、たったの22歳だったんですよね。

ちなみに、2015年には『100分 de 名著』で特集されていたようだ。観なかったことを後悔……。ムックだけでも映画を観る前に購入しようか検討中。

メアリ・シェリー『フランケンシュタイン』 2015年2月 (100分 de 名著)

メアリ・シェリー『フランケンシュタイン』 2015年2月 (100分 de 名著)

 

 

Frankenstein in Baghdad 

そして二つ目の理由は、Frankenstein in Baghdadを読んだから。 

FRANKENSTEIN IN BAGHDAD

FRANKENSTEIN IN BAGHDAD

 

 2018年のブッカー国際賞ショート・リストにノミネートされていた作品だ。2018年の全米図書賞(Nationl Book Awards)翻訳部門のロングリストにもノミネートされている。

2018年 ブッカー国際賞ショート・リスト - トーキョーブックガール

The 2018 National Book Awards Longlist: Translated Literature | The New Yorker

イラク出身&在住の作者Ahmed Saadawiによってアラビア語で書かれ2013年に出版、今年に入って英語に翻訳された。 

タイトルの通り、バグダッドに現れた怪物の話。時はイラク戦争開始後。バグダッドでは毎日のように自爆テロが起こり、多くの人の命が失われていく。

そんな中、「嘘つき」ハディ(Hadi)として知られる廃品回収業者は、テロや戦闘が起こった場所に現れ、そこらじゅうに散らばっている死体の一部を集めて回っている。ハディは家でこれらを組み合わせ、一つの死体を作り上げているのだ。ある夜、ようやくこの怪物は完成するのだが、なんとそこに自爆テロリストの攻撃を食い止めて命を落としたサディール・ノボテル・ホテルのガードマン、ハシブのさまよえる魂が入り込んでしまう。

意識を得た怪物はむっくりと起き上がり、街を徘徊するようになる。そして自分の一部をなす人間の代わりとなり、復讐殺人を繰り返す。復讐を遂げると、その人間からもらった体のパーツがはがれおち(成仏したということだろうか)、怪物は徐々に弱くなっていくのだが、そんな彼が失った体のパーツをいつまでも補強し続けられるほど、イラクの情勢は悪化をたどり……。

『フランケンシュタイン』のストーリーを忠実になぞりつつも、イラクの州兵(National Guard)と米軍、スンニ派とシーア派の民兵が闊歩するようになり、平穏な日常生活が失われたバグダッドという都市の悲哀を浮かび上がらせる作者の手腕が光る。

Honestly, I think everyone was responsible in one way or another. I'd go further and say that all the security incidents and the tragedies we're seeing stem from one thing- fear.  

バグダッドはかつて多宗教都市・国際都市であった。イスラム教の信者だけではなく、キリスト教のおばあさんやユダヤ教を信じる人々も登場し、イラク戦争前は皆ご近所さんとして多様性を受け入れ、それなりに仲良くやっていたのだということが描かれる。

これはイラク人作家による世界に対しての問題提起だ。

忘れられがちだが、タイトルにもなっている『フランケンシュタイン』は怪物を指すのではなく、怪物を作り上げてしまった罪深き人間の名前なのだということにも注目したい。

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