トーキョーブックガール

海外文学や洋書レビューを中心に、好きなことをゆるゆると書いているブログです。

『継母礼賛』 マリオ・バルガス=リョサ

[Elogio de la Madrastra]

マリオ・バルガス=リョサの作品は大きく2つに分けられる。私は心の中でこっそり「社会派リョサ」、「エロリョサ」と呼び分けている。

社会派リョサは『都会と犬ども』、『緑の家』、『密林の語り部』などノーベル文学賞が「権力構造の地図と、個人の抵抗と反抗、そしてその敗北を鮮烈なイメージで描いた」と評価した作品群。

都会と犬ども

都会と犬ども

 
緑の家(上) (岩波文庫)

緑の家(上) (岩波文庫)

 
緑の家(下) (岩波文庫)

緑の家(下) (岩波文庫)

 
密林の語り部 (岩波文庫)

密林の語り部 (岩波文庫)

 
楽園への道 (河出文庫)

楽園への道 (河出文庫)

 

一方のエロリョサは『継母礼賛』、『ドン・リゴベルトの手帖』、『フリアとシナリオライター』、『悪い娘の悪戯』など。 

継母礼讃 (中公文庫)

継母礼讃 (中公文庫)

  
ドン・リゴベルトの手帖 (中公文庫)

ドン・リゴベルトの手帖 (中公文庫)

 
フリアとシナリオライター (文学の冒険シリーズ)

フリアとシナリオライター (文学の冒険シリーズ)

  • 作者: マリオバルガス=リョサ,Mario Vargas Llosa,野谷文昭
  • 出版社/メーカー: 国書刊行会
  • 発売日: 2004/05/01
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悪い娘の悪戯

悪い娘の悪戯

  • 作者: マリオ・バルガス=リョサ,八重樫克彦,八重樫由貴子
  • 出版社/メーカー: 作品社
  • 発売日: 2011/12/23
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もちろんどちらも社会の問題についてだけ、もしくは官能についてだけ書かれているわけではない。リョサのすごいところは、社会派もエロも同じくすさまじいほどの熱量と勢いで書き、文学に仕立て上げているということだと思う。全くタイプが違うのだが、どちらもリョサならではの滑らかな語り口で読ませるpage-turner。

余談だが、日本では社会派リョサとエロリョサを簡単に見分けられる。本の表紙だ。

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社会派リョサは、割と重々しい感じ。反対に、エロリョサはノーベル文学賞作家にしてはやたらとポップだったり、erotismoな絵画が表紙だったりと分かりやすくエロエロエッサイム攻撃してくる。

表紙さえ確認すれば「社会派リョサが読みたいのにエロリョサを買っちゃったよ」とか、「エロリョサが読みたかったのに社会派買っちゃった〜」という事態は避けられるはず。まあ、どちらも素晴らしい読書体験を提供してくれるので、どちらがおすすめというのもない。

スペイン語版や英語版はどれも似たり寄ったりのカバーデザインになっているので、日本の出版社はすごいな〜と思っている。

 

と前置きが長くなってしまったが、『継母礼賛』の話。

美貌のルクレシアは40歳になったばかり。リゴベルトという離婚歴のある男性と再婚し、リゴベルトの息子であるアルフォンソ(フォンチート)との三人暮らしが始まった。

自分を女神のように崇めるリゴベルトを愛しているルクレシア。少年フォンチートは自分に懐いてはくれないだろうと半ば覚悟していたのだが、意外にも彼は

とっても好きだよ、ママ、ママが一番好きだよ

と歌うように言ってくれる。

おやすみのキスが激しすぎるような、胸をじっと見られているような気もするけれど、フォンチートは

乱れたブロンドの巻き毛、不意をつかれて半ば開いた口もとからのぞく真っ白な歯、戸口の陰の中にルクレシアをとらえようとする、ぱっちりとした大きな青い瞳

の幼子イエスを思わせるような美少年。こんな可愛い子供相手に疑念を抱くなんてどうかしていると考え直す。ところが…。

という話が、下記の6つの絵をモチーフにして語られる*1

 

ヤコブ・ヨルダーエンス《カンダウレス王寝室のギュゲス》

フランソワ・ブッシェ《水浴の後のディアナ》

ティツィアーノ・ベチェルリオ《ビーナスとキューピットと音楽》

フランシス・ベーコン《頭部I》

フェルナンド・デ・シシュロ《メンディエータ10への道》

フラ・アンジェリコ《受胎告知》

 

例えば、フォンチートがルクレシアのシャワーを覗き見していると知った時のルクレシアの見た夢は《水浴の後のディアナ》に基づいたもので

主役の人物はこの絵の中にはいません。というより、姿は見せず、後ろのほうの離れた木立に隠れて、わたしたちをうかがっているのです……無垢な子供の幻想を膨らませ、わたしたちを呑みほし、食いつくすように見ているのです。彼がそうしていると思うと、楽しくなり、ついからかいたくなります。

と自分が注目されていることが純粋に愉快で、おかしな気分になっているルクレシアを三人称の時より的確に描写している。

また、リゴベルトの沐浴の様子は圧巻。鼻をかんだり鼻毛を切ったりという男のみだしなみの様子がこれほどダイナミックに私的に語られたことがあっただろうか。

 

もともと宗教か神話にまつわる絵画のみ裸婦を描くことが許されていたヨーロッパで、ヌードを描きたい・見たいがために作成された絵画は夢のように美しく、それも相まって邪気も現実感もない神話のような物語だった。

表紙に据えられているのはブロンツィーノによる《愛の寓意》。これまた内容にぴったりで、感動的。

フォンチートはじめ、リゴベルト一家は、その後のリョサの作品『ドン・リゴベルトの手帖』にも『つつましい英雄』にも登場。フォンチートのエピソードを読んでいると、10いくつも年上の叔母と結婚*2したリョサが持つフェティッシュを想像してしまったり。

 

『つつましい英雄』はまだ読んでいないが、あらすじを読んでも表紙を見ても「社会派リョサとエロリョサのコンビネーションかな」という気がしている。

2015年発売の最新作Cinco Esquinasはエロリョサらしい。

同じく2015年に2番目の妻を捨てイサベル・プレイスラー(プレイスレル)という美貌のセレブリティ(ちなみにエンリケ・イグレシアスの母)と付き合いだしたリョサは、「この私生活がCinco Esquinasを産んだのか」と聞かれたりもしていた。「答えないよ〜ん」とのことだが。

Mario Vargas Llosa: “No tengo talento natural. Me cuesta escribir” | Babelia | EL PAÍS

P. La gente puede tener la tentación de pensar que esa excursión erótica que constituye también la novela es una novedad. Evidentemente, no lo es, porque están Los cuadernos de don Rigoberto, Elogio de la madrastra, Las aventuras de la niña mala…

R. Carmen Balcells, pobre, una amiga tan querida, fue una de las primeras en leer Cinco esquinas en manuscrito y me preguntó: “¿Las escenas eróticas las has escrito recientemente o las has escrito antes de…?” [risas]. Le dije que esa era una pregunta insolente que no le iba a responder. [Risas]. 

 

インタビュアー: この小説を形作っているエロティックな探求は、あのニュースにもとづいているのではないかと考えたくなる人が多いと思うんです。でも明らかにそうではないですよね、『ドン・リゴベルトの手帖』、『継母礼賛』、『悪い娘の悪戯』の系譜なのですから…。

リョサ: 亡くなった私の大事な友人カルメン・バルセルス(著作権エージェント)はCinco Esquinasの原稿を最初に読んだ一人でしたが、「エロティックなシーンは、最近書いたの?それともあの騒動の前に書いたの?」と聞いてきました(笑)。それは失礼な質問だし答えないよと、彼女には伝えましたよ(笑)。

Cinco esquinas/The Neighborhood

Cinco esquinas/The Neighborhood

 

それではみなさま、今日も¡Feliz lectura! 

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*1:中公文庫では絵画のカラーコピーがついている。

*2:初婚。血のつながりはなかった。