トーキョーブックガール

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The Spirit of Science Fiction / ロベルト・ボラーニョ: 若き詩人を描いた初期作品

[El espíritu de la ciencia-ficción]

読みたい2019年新刊リストには入れていなかったのだけれど、Kindleで試し読みをしたらめちゃくちゃ面白くて、即購入してしまった一冊。

ボラーニョが1984年に執筆した作品で、スペイン語で出版されたのが2016年、英語訳は今年発売となった。訳者はボラーニョ作品を多く手がけていて、定評のあるNatasha Wimmer(英語版『2666』も翻訳している)。 

SPIRIT OF SCIENCE FIC (MR-EXP)

SPIRIT OF SCIENCE FIC (MR-EXP)

 

てっきりこの作品の日本語訳は白水社のボラーニョ・コレクションで発売済みなのかと思っていたら、そうではなかったんですね。というか、意外と英語訳も日本語訳も出版されていないボラーニョ作品はまだまだあるんだな。知らなかった。今年は是非スペイン語で色々と読んでみよう。

 

The Spirit of Science Fictionは二人の若き詩人を主人公とした中編小説である。

チリ出身のハン(Jan)とレモ(Remo)は連れ立ってメキシコシティへ引越し、ルームシェア(といってもアパートの屋根裏というか屋根小屋のようなところ)を始める。

10代後半と20代前半のうら若き青年たちは、どちらも自らを詩人と称しているものの、パーソナリティがかなり異なる。 

ハンは家から出ることはほとんどない。引きこもって、大好きなSFやらロシア人の宇宙飛行士やらナチスやらについて考え、自分の空想をレモに語っては、アメリカのSF作家にばかり手紙を書いている。

その手紙もひどく一方的なもので、ファンレターですらない。アリス・シェルドン(ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア)には自分の過ごした一日のことをつらつらと書き綴り、ロバート・シルヴァーバーグにはNorth American Committee of Science Fiction Writers in Support of the Third World's Neediest Cases(なんじゃそら笑)に入って第三世界を支えてよと訴え、アーシュラ・K・ル=グウィンにはラテンアメリカ、それもチリに生まれてSF作家を目指すのは大変だとこぼす。

一方レモは早々に新聞社での仕事にありつき、自作の詩を発表しあうワークショップに加わることでホセ・アルコ(José Arco)という男性と知り合いになり、その繋がりから知り合った女性に恋をしたり、モーターサイクルに乗ったりして青春を謳歌する。 

 

この二人の物語が、三つの構成を通して語られる。

一つは会話(主にハンとレモの会話だが、この限りではない)、ハンのSF作家への手紙、そしてレモの独白だ。

青春物語でもあり、ミステリーでもあり、ラテンアメリカ(というよりもメキシコシティ)および詩の賛歌でもある。

となると頭に浮かぶのはボラーニョ後期の傑作の一つ、『野生の探偵たち』で、若かりし頃に書かれた萌芽として楽しめる作品だった。

アルトゥーロ・ベラーノこそ登場しないものの、最後まで読むと、どの人物にロベルト・ボラーニョ自身が投影されているかちゃんと示されている。そして、彼がメキシコで過ごした青春にも思いを馳せて、しばしぼんやりとしてしまう。

読みやすいし、ボラーニョエッセンスが詰まっているので、初読みボラーニョとしてもおすすめ。

野生の探偵たち〈上〉 (エクス・リブリス)

野生の探偵たち〈上〉 (エクス・リブリス)

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野生の探偵たち〈下〉 (エクス・リブリス)

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やたらと「ジョルジュ・ペレックってすごいんだぜ」的エピソードが出てくるのが気になって、読みたくなってしまった。

煙滅 (フィクションの楽しみ)

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