トーキョーブックガール

海外文学や洋書レビューを中心に、好きなことをゆるゆると書いているブログです。

『ボルヘス怪奇譚集』 ホルヘ・ルイス・ボルヘス / アドルフォ・ビオイ=カサーレス

[Cuentos Breves y Extraordinarios]

あらゆる人食い鬼がセイロンに棲み、彼らの存在すべてがただ一個のレモンのなかにはいっていることは、よく知られている。盲人がそのレモンを切り刻むと、人食い鬼は残らず死ぬ。

ー『インドの好古家』第1巻(1872)より

 いや〜、毎日本当に暑いですね。皆様、ご自愛くださいませ。

この暑さの中で、長編を読むのは結構大変。避暑地に旅行したり、海へ行ったりしていると、なおさら大変。ということで、最近は短編集ばかり読んでいる。

真夏の読書に良さそうだなと思って、寝かせていた『ボルヘス怪奇譚集』も7月になってようやく読み終えた。2018年に河出文庫が文庫化したもの。

ボルヘス怪奇譚集 (河出文庫)

ボルヘス怪奇譚集 (河出文庫)

  • 作者: Jorge Luis Borges,Adolfo Bioy Casares,ホルヘ・ルイスボルヘス,アドルフォビオイ=カサーレス,柳瀬尚紀
  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2018/04/06
  • メディア: 文庫
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収録されているのは古今東西から集められた逸話ばかり92編で、ボルヘスとカサーレスによる緒言によると、「それが短いものであるかぎりすべて歓迎した」とのこと。

とにかく短く(数行のものさえある)、奇妙で、神秘に満ち満ちていて、ボルヘス&カサーレスが嬉々として選んでいるのが目に浮かぶようでもある。

 

ギリシャ神話やキケロの『予言について』、唐朝の伝奇小説『離魂記』、バートンの『千夜一夜物語』から抜き出したものもあるし、ナサニエル・ホーソーンやフランツ・カフカといったボルヘス&カサーレスお気に入りの作家による逸話もある。

カサーレスの妻シルビナ・オカンポによる短編もある。タイトルは「不滅の種族」。「すべてのものが完璧に小さい」市を訪れた「わたし」の話。これがとてつもない面白さで、何度も繰り返し読んでしまった。

日本についての逸話も収録されている。アドラー=レフォン(Adler Revon)による『日本の文学(原題はJapanische Literatur・日本語訳は出ていない)』から、「ひたむきな画家」というタイトルがつけられて。葛飾北斎に関する、あの有名なエピソードである。

7歳の頃から、わたしはものの形を描きたいという衝動を感じた。50歳に近くなって、描きためた絵を発表した。しかし70歳以前に仕上げたものには何ひとつ満足していない。やっと73歳になって、およそではあるが、鳥や魚や草花の真の形と本性を直感できるようになった。したがって、80歳になったら長足の進歩をしているはずだ。90歳では一切のものの本質を見抜くであろう。100歳になれば、さらに高い、名状しがたい状態に達するのは確かだ。もし110歳まで生きるなら、一切が、ひとつの点から一本の線にいたるまで、生命をもつであろう。

もちろん、ボルヘスとカサーレス自身による創作も含まれている。

 

全体的に夢の話が多い。

夢の中で竜を殺したら現実でも竜が死んだり。蝶の夢を見てから、自分が蝶になった人間なのか、人間になった夢を見た蝶なのかわからなくなったり。

そんな奇妙な物語が、長短や国によってジャンル分けされるわけではなく、まるで誰かの本棚のように雑然と並んでいる。どこからでも読むことができて、どこを切り取っても幻想的な世界が構成されている。

ボルヘスとカサーレス自身の小説執筆にインスピレーションを与えたであろう奇妙な話も多く、読んでいてこんなに楽しい短編集はなかなかない。

 

それではみなさま、今日もhappy reading! 

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