トーキョーブックガール

海外文学や洋書レビューを中心に、好きなことをゆるゆると書いているブログです。

Circe / マデリン・ミラー:ギリシャ神話から生まれたフェミニズム小説

(キルケー)

When I was born, the name for what I was did not exist. They called me nymph, assuming I would be like my mother and aunts and thousand cousins.

私が生まれた時、私を表す名前は存在していなかった。母やおばや何千人もの従姉妹と同じようになるのだろうということで、神々は私のことをニンフと呼んだ。

出版前から気になっていたこの小説。

タイトル『キルケー(Circe)』通り、ギリシャ神話の魔女キルケー*1の人生(魔女生?)を描いた物語だ。こちらもLESSに続き、Audibleで聴きました。

Circe

Circe

 

 ギリシャ神話の魔女キルケーは、太陽神ヘーリオス*2と女神ペルセーイス*3の間に生まれた。しかし、父のように力があるわけではなく、母のように美しくもない。

キルケーのヤマネコのような髪、尖りすぎたあご、鋭すぎる金色の目を見て、ヘーリオスは「この娘は神とは結婚できない。人間の王子にでも嫁にやろう」と言う。

また、子供の頃から、母に瓜二つの美しい兄ペルセースや姉パーシパエーに散々いじめられたキルケーは、神々よりも人間の世界に親しみを覚える。

そしてある日、漁師グラウコス(Glaucos)*4に恋をする。彼とずっと一緒にいたいと考えるキルケーは、父ヘーリオスにグラウコスを神にしてくれるよう懇願する(人間のままではあっという間に年を取って死んでしまうから)。もちろん、そんな願いは聞き入れられないのだが、キルケーは諦めきれずに見よう見まねで魔術を使い、自らグラウコスを神にしてしまうのだ!

しかし、あろうことかグラウコスはキルケーよりも美しいニンフに恋をしてしまい、キルケーを拒絶する。怒り狂ったキルケーは、またもや魔術でそのニンフを怪物に変えてしまうのだった。そう、この怪物がスキュラ(Scylla)*5で、「上半身は美しい女性、下半身は魚、お腹から犬の首が6本生えている」といわれる海の魔物。

これを見とがめたゼウスは、キルケーをアイアイエー島に島流しにする。

と、あらすじを見ると分かる通り、これはフィクションというよりも、ギリシャ神話をそのままなぞった物語である。

ただし、キルケーの視点から。この"Greek myth retold"という感じが本当に面白くて、あっという間に聴き終えてしまった。筋が通らないギリシャ神話のエピソード全てに肉付けをして、美しく仕立て直した小説、という感じ。何より、ギリシャ神話オタクであろう作者のミラーが嬉々として書いているのが伝わってくるようでもあった。

キルケーといえば、一番有名なのはオデュッセウスを誘惑したエピソードだが、オデュッセウスが登場するのは後半のみ。あくまでキルケーの一生についての小説だ。 

mementmori-art.com

ギリシャ神話を読んでいて、男尊女卑を感じることはそうそうないものの、こうして違う角度から読んでみるとその女性描写がどれほど曖昧で適当なものかと思わざるをえない。

『オデュッセイア』に出てくるのなんて、何を考えているのかさっぱり分からないキルケーと、これまた意味不明なまでに従順な「待つ女」ペネロペイアくらいだもの。

神話をがっつりと反転させて、フェミニズム小説に仕立て上げたマデリン・ミラーの力量に感服しっぱなしの読書体験となった。

これは、女性が戦い欲しいものを勝ち取る物語。容姿が美しくないといって仲間はずれにされ、自分で魔術を学んで使ってみても「あの女にそんなことができるわけない」と信じてもらえず。

嘆き悲しみながらも、自分にしかできないことに一生懸命取り組み、生き続けるキルケーをヒロインにしてくれてありがとうと、作者に感謝したくなる。

ちなみにギリシャ語の教師を務めていたミラーはかなりのギリシャ神話オタクらしく、『アキレウスの歌』という本も出版している。こちらは日本語訳されている。

アキレウスの歌

アキレウスの歌

 

 

Circeはもちろんホメロスの『オデュッセイア』を読んでいなくても楽しめるが、『オデュッセイア』自体がかなり面白い作品なので、こちらを先に読むことをおすすめする。

ホメロス オデュッセイア〈上〉 (岩波文庫)

ホメロス オデュッセイア〈上〉 (岩波文庫)

 
ホメロス オデュッセイア〈下〉 (岩波文庫)

ホメロス オデュッセイア〈下〉 (岩波文庫)

 

そして、ギリシャ神話から生まれたフェミニズム小説といえばこちらも!マーガレット・アトウッドの異色作『ペネロピアド』。

これは、オデュセウスを待ち続けた妻、ペネロペイアの物語。ペネロペイアは、何を思って彼を待ち続けたのか?12人の女中たちはなぜ殺されなければいけなかったのか?Circeと照らし合わせて読むのも楽しいと思う。

アトウッドにしてはカジュアルに描かれているこの作品(例えるならばギリシャ神話と『ゴシップガール』のマッシュアップという感じ)、鴻巣友季子さんの翻訳も素晴らしいです。

ペネロピアド (THE MYTHS)

ペネロピアド (THE MYTHS)

 

 久しぶりに読み返したくなったギリシャ神話。

ギリシア・ローマ神話―付インド・北欧神話 (岩波文庫)

ギリシア・ローマ神話―付インド・北欧神話 (岩波文庫)

 
ギリシア神話 (岩波文庫)

ギリシア神話 (岩波文庫)

 
イリアス〈上〉 (岩波文庫)

イリアス〈上〉 (岩波文庫)

 
イリアス〈下〉 (岩波文庫)

イリアス〈下〉 (岩波文庫)

 

 

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