トーキョーブックガール

世界文学・翻訳文学(海外文学)や洋書レビューを中心に、好きなことをゆるゆると書いているブログです。

2019年 ブッカー国際賞ロングリスト

*この記事は、「2019年のブッカー国際賞」に関する記事です。

2020年のブッカー国際賞のショートリストはこちらをどうぞ。

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あっという間にこの時期がきてしまった。

2005年に創設され、著者と英語への翻訳者が共同受賞するブッカー国際賞のロングリストが発表された(3月13日)。

今年の6月からはマン・グループがスポンサーを降り、代わりをカリフォルニア在住のベンチャーキャピタリスト&ライター夫婦マイケル・モリッツ&ハリエット・ヘイマンが務めることが発表されている。ということで、2019年から「マン・ブッカー賞」ではなくなったんですね。

国際賞は、2018年後半から2019年にかけてイギリスで出版された翻訳書が対象。

ノミネート作品はこちらの通り。

 

 

Celestial Bodies

著者:Jokha Alharthi(オマーン、アラビア語)

翻訳者:Marilyn Booth

Celestial Bodies

Celestial Bodies

 

オマーンの村を舞台にした三姉妹の物語。Mayyaは手痛い失恋の後、別の男性と結婚する。Asmaは義務感から結婚する。Khawlaはカナダへ移住した恋人を待ち続け、舞い込む結婚申し込みを拒否している。三姉妹の人生とともに、変わりゆくオマーンという国を描いた小説。

著者のJokha Alharthiは若手作家ながらも短編小説や児童文学を発表し、著作が何カ国語にも訳されている実力者。

『細雪』好きとしては放っておけない感じ……。 

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Love In The New Millennium

著者:残雪(中国、中国語)

翻訳者:Annelise Finegan Wasmoen

Love in the New Millennium (The Margellos World Republic of Letters)

Love in the New Millennium (The Margellos World Republic of Letters)

  • 作者: Can Xue,Annelise Finegan Wasmoen,Eileen Myles
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日本では『黄泥街』が白水社から復刊されたばかりの残雪。

こちらはおそらく2006年に出版された《末世爱情》の英語訳。 

密告者で溢れ、常に監視下に置かれる世界に住む女性たち。疑念と妄想が入り混じる社会から逃げ出そうとする者もいれば、漢方で自分自身を変えるという施術を行うNest Countyへ行く者もいる。様々な愛の形を描いた小説。 

ちょっとディストピア的な感じでしょうか。読んでみたい。中国語で読んで、ブログを書いていらっしゃる方とかいないのかなあ、探してみよう。

 

The Years

著者:アニー・エルノー(フランス、フランス語)

翻訳者:Alison L. Strayer

The Years (English Edition)

The Years (English Edition)

 

フランスではルノードー賞をはじめ多くの賞を受賞している。こちらはLes Annéesの英語訳で、両親の生い立ちから死までの半世紀近くを経て変わるフランスと自身の歴史を描いている作品。

マルグリット・デュラス賞受賞。

 

At Dusk

著者:黄晳暎(ファン・ソギョン)(韓国、韓国語)

翻訳者:Sora Kim-Russell

At Dusk (English Edition)

At Dusk (English Edition)

 

著者の名前を調べて、漢字表記が出てくるのが逆に新鮮。今、日本でも韓国文学はものすごく盛り上がっているけれど、現在は(韓国人著者名は)カタカナ表記のみになっていますもんね。 

世界で高い評価を受けている韓国人作家、ファン・ソギョンによるこちらの作品は、2015年に韓国で《해질 무렵》として出版された最新作。

人生の夕暮れを迎えた男性Park Minwooが自身の生きてきた日々を振り返るという物語。ソウルの貧しい過程に生まれ、近代化が進む世の中を必死に泳いできた。現在は大手建築会社の役員を務めるまでになっている。しかし会社に汚職調査が入り、彼は今までの仕事を見つめ直す。

そんなある日、昔愛し裏切られた女性Cha Soonaから連絡を受け……。

 

Jokes For The Gunmen

著者:Mazen Maarouf(アイスランド&パレスチナ、アラビア語)

翻訳者:Jonathan Wright

Jokes for the Gunmen (English Edition)

Jokes for the Gunmen (English Edition)

 

アイスランド在住の若き作家がアラビア語で書いたデビュー作。

12の作品が収録された短編集で、レバノンでの戦争によって市民が受けた影響を描いている。表題作は、自分の父親がどれほど厳しく自分を打ち据えるかを自慢しあう男の子たちの物語らしい。

ジョークと戦争を結びつけられるのはフィクションのみと、『キャッチ=22』の名もあげて語るIrish Timesのレビューが印象的だった。

 

Four Soldiers(『四人の兵士』)

著者:ユベール・マンガレリ(フランス、フランス語) 

翻訳者:Sam Taylor

Four Soldiers (English Edition)

Four Soldiers (English Edition)

 
四人の兵士

四人の兵士

 

日本語訳『四人の兵士』が2008年に出版されているユベール・マンガレリの作品。

第一次世界大戦が終結した1919年を舞台に、敵兵に追われて近くの森に逃げ込んだロシア赤軍の兵士たちを描く。 

 

The Pine Islands

著者:Marion Poschmann(ドイツ、ドイツ語) 

翻訳者:Jen Calleja

The Pine Islands (English Edition)

The Pine Islands (English Edition)

 

Gilbert Silvesterは映画における「髭」を研究している男性だ。昨夜、妻が不倫しているという夢を見た。彼女から距離を置きたいと突然感じたGilbertはすぐさま空港へ向かい、日本への飛行機に乗ってしまう。

日本で彼は松尾芭蕉の俳句と出会い、松島の名月を見たいと願うようになる。そこで自殺願望のある青年Yosaと出会い……。コーヒー愛飲者のGilbertは「お茶の国」でどう変化を遂げるのか?

なんと、日本を舞台とした小説。"The pine islands"ってなんのことかと思ったら、宮城の松島のようですね。 

 

Mouthful Of Birds(『口のなかの小鳥たち』)

著者:サマンタ・シュウェブリン(アルゼンチン&イタリア、スペイン語)

翻訳者:Megan McDowell 

Mouthful of Birds: Stories (English Edition)

Mouthful of Birds: Stories (English Edition)

 
口のなかの小鳥たち (はじめて出逢う世界のおはなし―アルゼンチン編)

口のなかの小鳥たち (はじめて出逢う世界のおはなし―アルゼンチン編)

 

2017年にも同じ訳者によるFever Dreamがノミネートされていたサマンタ・シュウェブリン。Mouthful of Birds(原題はPájaros en la boca y otros cuentos)は幻想的な短編ばかりを集めた作品で、正統派アルゼンチン人作家という趣が感じられる。特に表題作は突き飛ばされるような衝撃がある。

当ブログのレビュー(日本語訳)はこちら。

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The Faculty Of Dreams

著者:Sara Stridsberg(スウェーデン、スウェーデン語)

翻訳者:Deborah Bragan-Turner 

The Faculty of Dreams (English Edition)

The Faculty of Dreams (English Edition)

 

 アンディー・ウォーホルを狙撃した「全男性抹殺団」の一員バレリー・ソラナス。彼女は52歳の時、サンフランシスコのホテルの一室で死亡しているのが発見される。

この作品はソラナスが過ごした少女時代や精神病院を描いている。

 

Drive Your Plow Over The Bones Of The Dead

著者:オルガ・トカルチュク(ポーランド、ポーランド語)

翻訳者:Antonia Lloyd-Jones

Drive Your Plow Over the Bones of the Dead: A Novel

Drive Your Plow Over the Bones of the Dead: A Novel

 

昨年『逃亡派』でブッカー国際賞を受賞したトカルチュクによるノワール小説。ポーランドの田舎で、60代の女性Janina Duszejkoは自分の犬二匹が消えた事件について語り始める。人間とはほとんど交流せず、動物たちと絆を育んでいた女性だ。

ある日地元の狩猟クラブメンバーが殺され、Janinaも警察による調査に巻き込まれる。 

翻訳者は『逃亡派』とは別の方で、作品の雰囲気もだいぶ違うようで楽しみ。

 

The Shape Of The Ruins

著者:フアン・ガブリエル・バスケス(コロンビア、スペイン語)

翻訳者:Anne McLean

The Shape of the Ruins

The Shape of the Ruins

 

日本では『物が落ちる音』で有名なフアン・ガブリエル・バスケスの作品、原題はLa Forma de las Ruinas

ラファエル・ウリベ・ウリベとはコロンビアの弁護士で、ガブリエル・ガルシア=マルケスの『百年の孤独』のインスピレーション源となったといわれている人物だ(アウレリャノ・ブエンディア大佐は彼をモデルにして書かれたそう)。

ウリベ、およびホルヘ・エリエセル・ガイタンの暗殺という一見何の繋がりもない二つの事件を通してコロンビアという国の光と闇を描く。

日本のAmazonでは英語訳のKindleがなんと500円ちょっとになっている! 500ページ超とボリュームがあるので紙で、しかもできればスペイン語で読みたいけれど、この価格に惹かれてKindle版を買ってしまいそう。

 

The Death of Murat Idrissi

著者:Tommy Wieringa(オランダ、オランダ語) 

翻訳者:Sam Garrett

The Death of Murat Idrissi (English Edition)

The Death of Murat Idrissi (English Edition)

 

両親が生まれた国モロッコを旅行する二人のヨーロッパ育ちの女性。だがそこは、ヨーロッパとはかけ離れた、自由の少ない土地だった。困っている二人のガイドを申し出た男性は、二人を捕らえ監禁する。 

 

著者:Alia Trabucco Zeran(チリ&イタリア、スペイン語)

翻訳者:Sophie Hughes

The Remainder

The Remainder

 

舞台はチリのサンティアゴ。灰に覆われた街だ。移民の子供たちFelipe、IquelaとPalomaは必死に生き延びる道を探すが、それぞれ辛い過去から逃れることができない。 

デビュー作。 

 

トーキョーブックガールの予想

・この中で読んだことがあるのはサマンタ・シュウェブリンのMouthful of Birds(『口のなかの小鳥たち』)だけだが、この作品は英語訳が出版されるというニュースを見た時から候補に入るだろうなと思っていたので、予想は当たった。なんとなく同じアルゼンチンのボルヘスやコルタサルを彷彿とさせるようでもあり、一方で現代的で女性ならではの視点も感じられる、新しいラテンアメリカ文学という感じ。

・先月読んだDisorientalはとても素敵だったので入るかなと思っていたのだけれど残念。フランス人作家のノミネートがいつも割と多いのと、今回だとアニー・エルノーの作品と少しテーマが重なったか。 

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 ・Goodreadsでの一般読者によるノミネート予想は、一位から十位に日本人の作品が三つも入っていたが、どれもノミネートならずでした。ただしこの予想は一般読者によるものだけあって、明らかに(ブッカー賞が選ぶような)純文学ではないものがいくつもランクインしていたりと毎年結構精度が低い。

ちなみにランクインしていたのは村上春樹の『騎士団長殺し』、村田沙耶香の『コンビニ人間』(この二作が一位&二位争い)、そして多和田葉子の『献灯使』。

『コンビニ人間』か『献灯使』どちらかはノミネートされるかなと思ったのだけれど、入らず。

 

トーキョーブックガールの読みたいリスト

さて、ノミネート作の中で読んだことがあるのはたった一冊。

これから読みたいなと考えているのはフアン・ガブリエル・バスケスのThe Shape of the Ruinsと残雪のLove in the New MillenniumJokes for the Gunmenも読みたい。

ただし今年はなかなか趣味の読書の時間が取れなくて……長く積ん読してしまうかもしれない。  

ショートリストの発表は4月9日。楽しみですね!

 

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