トーキョーブックガール

海外文学や洋書レビューを中心に、好きなことをゆるゆると書いているブログです。

2018年のブッカー賞ロング・リスト

(アップデート:2018-10-17)

www.tokyobookgirl.com

www.tokyobookgirl.com

 

2018年のブッカー賞ロング・リストが発表された(7月23日)。

今年は、イギリス人作家5冊、アイルランド人作家3冊、カナダ人作家2冊、アメリカ人作家3冊と結構バランスが取れている印象。ちなみに女性作家は7人、男性作家は6人。

個人的には、アリ・スミスのWinterはリスト入りするだろうと踏んでいたのだけれど、大外れ。

審査委員長のクワメ・アンソニー・アッピアは、「時代の流れを受けて、ディストピア・フィクションが多く見受けられた。ロングリストに選んだ作品のいくつかは、今日の時事問題に対応しており、今読むべき本だ……どれも既存の価値観を破壊するようなユニークな小説である」とコメントを発表。その言葉通り、ディストピア小説が目立つラインナップとなっている。

また、今年ゴールデン・ブッカー賞を受賞した『英国人の患者』の作者マイケル・オンダーチェの新作Warlightもロング・リスト入り。これは今読んでいるのですが、第二次世界大戦を舞台にした小説で、非常にオンダーチェらしく面白いです!

ロング・リスト入りした作品はこちら。

 

Snap / ベリンダ・バウアー

Snap: ‘The best crime novel I’ve read in a very long time’ Val McDermid

Snap: ‘The best crime novel I’ve read in a very long time’ Val McDermid

 

イギリス人の人気ミステリー作家による作品。

暑い夏のある日、11歳のジャックと妹たちは故障した車の中に取り残された。母親は「すぐ帰ってくるから、妹たちをお願いね」とジャックに言い残して去ったものの、二度と姿を見せなかった。

ジャックは妹たちの面倒を見る。その後3年間も、母親がいないということを世間に知られずに生活を続けるのだ。どうも誰かに殺されたらしい母親の秘密を探るべく、ジャックは動き出す……。

あらすじを見ていると、是枝監督の『誰も知らない』が思い浮かんだ。が、バウアーの小説はクライムノベルということもあり、他にも様々な登場人物が複雑に絡んでくる様子。

 

Milkman / アンナ・バーンズ  

Milkman (English Edition)

Milkman (English Edition)

 

 こちらはアイルランド人作家による作品。とある町でのゴシップや噂話にまつわるディストピア小説。主人公は3人姉妹の真ん中で(名前はなく、ただmiddle sisterと呼ばれる)、ボーイフレンドのような存在の男の子と会っていることを母親に知られないように必死。

ところがなぜか、主人公が41歳の牛乳配達人と付き合っているらしいという噂が立つ。「噂を立てられる」人物は"interesting"とされ、"interesting"とされると逮捕されることもある世の中。主人公は一生懸命、目立たないように努力するが……。

www.tokyobookgirl.com

  

Sabrina / ニック・ドルナソ

Sabrina

Sabrina

 

アメリカ人作家ニック・ドルナソによるグラフィックノベル。

グラフィックノベルがブッカー賞にノミネートされたのは、初めて!

シカゴで両親が留守の間、両親の猫をお世話する若い女性サブリナ。夜になると、姉のサンドラが遊びに来て、二人は夏休みに旅行しようと約束する。ところが、サブリナはその直後行方不明になってしまう。

その後、コロラドでアメリカ空軍飛行士のカルヴィンが幼馴染のテディを空港で出迎える。ガールフレンドだったサブリナが行方不明になり、精神が不安定になったテディをしばらく家に泊めることになったのだ……。

すごくシンプルな絵で(猫がめちゃくちゃ可愛い)、1ページ12コマで綴られる。Kindleで試し読み可能なので、興味がおありの方はぜひ。ゼイディー・スミスが「傑作」と絶賛しているのも見逃せない。

www.tokyobookgirl.com

  

Washington Black / Esi Edugyan 

Washington Black: A novel

Washington Black: A novel

 

カナダ人女性作家による小説。題名になっているワシントン・ブラックとは、19世紀のバルバドスに暮らす11歳の黒人奴隷の名前。英国人の兄弟がバルバドスのサトウキビ園を手に入れ、ワシントンはこの兄弟の1人、クリストファー・ティッチ・ワイルドに仕えるようになる。

ティッチは自然が大好きな探検家。しかしある日事件が起こり、ティッチとワシントンは一緒に島から逃げ出す。ワシントンはカナダや、イギリスのロンドン、モロッコといった場所まで行くことになるのだが……。 

www.tokyobookgirl.com

 

In Our Mad and Furious City / Guy Gunaratne

In Our Mad and Furious City (English Edition)

In Our Mad and Furious City (English Edition)

 

新進気鋭のイギリス人作家(苗字からみると、スリランカ系でしょうか)によるデビュー作。Goodreadsでの評価がめちゃくちゃ高いことにも注目。

語り手は3人、全員ティーンエイジャーで、物語はロンドン北部で暴動が起こるところから始まる。3人それぞれ違うバックグラウンドを持ち、イギリスへやってきた者ばかり。

アリ・スミスが「2018年のデビュー作品の中で一番」と絶賛している。 

 

Everything Under / デイジー・ジョンソン 

Everything Under

Everything Under

 

 こちらも、若干27歳のイギリス人作家のデビュー作(下記にノミネートされているサリー・ルーニーも27歳で、二人は今年のリストで最年少の作家である)。

グレーテルは母親とともに、ボートで生活していた。二人は、二人にしか通じない言葉を生み出し会話していたが、グレーテルが16歳になった時母親はいなくなってしまう。

大人になったグレーテルは辞書編集者となり、一人静かに辞書のアップデートをして過ごすようになる。ところが、ある日病院から電話がかかってきて、グレーテルの昔の記憶が蘇ってくる。川での生活、ある冬にボートを訪ねてきた少年……。

 

The Mars Room / レイチェル・クシュナー

The Mars Room

The Mars Room

 

ロミー・ホールは終身刑をうけ、スタンヴィル女性刑務所に入っている。刑務所の外、サンフランシスコには、彼女がストリップダンサーとして勤務していたマーズ・ルームがある。そして、7歳の息子ジャクソンもサンフランシスコで暮らしている。

刑務所で、ロミーは新しい環境に慣れようと必死だ。時折起こる暴力、生活必需品を手に入れるための奮闘、独特のルール。

ロミーは刑務所にやってくる先生に教えを受け、次第に文学に救いを求めるようになるが……。


The Water Cure / ソフィー・マッキントッシュ

The Water Cure: for fans of Hot Milk, The Girls and The Handmaid's Tale

The Water Cure: for fans of Hot Milk, The Girls and The Handmaid's Tale

 

 『侍女の物語』やHot Milkファンにおすすめ、とされているのがなんとも気になる作品。作者はイギリス人。

とある島に、家が建っている。ここにはグレース、リア、スカイという3人の娘、そして両親であるMotherとKingが暮らしている。島の外は毒素に覆われているらしい。いつも父親であるKingの教えを守り生活していた3人だが、ある日Kingはいなくなってしまう。

そしてその後、3人の男性が海辺に打ち上げられる。母親は男たちを怖がらせようとするが効果はなく、家は乗っ取られ、娘たちを襲おうとする。まるでシェイクスピアの『リア王』のように……。

ガーディアンでは、「ソフィア・コッポラがこの世の終わりを映画にするなら、こんな作品が仕上がるだろう」と評されていた。

www.tokyobookgirl.com

  

Warlight / マイケル・オンダーチェ 

Warlight: A novel

Warlight: A novel

 

 スリランカ系カナダ人作家オンダーチェによる待望の新作。

舞台は第二次世界大戦後のイギリスで、14歳の男の子ナサニエルと、その姉レイチェルが主人公である。二人がまだ子供の時、父親がシンガポールに転勤となる。その後、母親も父親と暮らすと言ってシンガポールに旅立つ。ナサニエルとレイチェルは隣人だったthe Moth(蛾)という男性に世話をされることになるのだが、ある日家の押し入れに母親のスーツケースがあるのを見つける。

シンガポールに行く準備をすると言って、衣類や生活用品を詰め込んでいたスーツケースは、中身もそのまま押し入れに入っていた。

母は一体どこへ行ったのか?母とは、どういう人物だったのか?12年後、ナサニエルはその謎に迫ることとなる。

 

The Overstory / リチャード・パワーズ

The Overstory

The Overstory

 

アメリカのポストモダン文学界を牽引し、『舞踏会へ向かう三人の農夫』などで知られる作家パワーズによる新作。

ベトナム戦争にて撃ち落とされるが、ガジュマルの木に引っかかり命拾いするアメリカ空軍のロードマスター。100年分の栗の木の写真を相続する芸術家。1980年代後半に命を落とすが、「気と光の存在」によって生き返った大学生。聴覚および言語障害があるものの、木々が互いに会話をしているということを発見する科学者。

これらの人物の人生は、原生林を守るという目的のもとでつながってゆく。

 

The Long Take / ロビン・ロバートソン 

The Long Take: A noir narrative

The Long Take: A noir narrative

 

イギリス人作家によるデビュー作。

ウォーカーは、ノルマンディー上陸作戦に参加した経験のある元兵士。現在はPTSDを抱えており、故郷のノバスコシアに戻ることができないでいる。ニューヨークからロサンゼルス、サンフランシスコとウォーカーが移動を続ける中で、読者はフィルム・ノワールが反映した当時のアメリカの様子を感じることができる。

アメリカン・ドリームは消えつつあるものの、崩れてゆくアメリカ社会が映画のように美しく描写されている。

 

Normal People / サリー・ルーニー

Normal People

Normal People

 

若干27歳のアイルランド人作家による小説。

コーネルとマリアンはアイルランドの田舎町でともに育ち、ダブリンのトリニティ・カレッジに入学する。しかし、2人の家庭環境は大きく異なっていた。コーネルの母親は、マリアンの実家で掃除係として働いていたのだ。

2人のその後の恋愛や、自分の気持ちを言葉にすることの難しさが綴られた作品。

 

From a Low and Quiet Sea / ドナール・ライアン

From a Low and Quiet Sea: A Novel

From a Low and Quiet Sea: A Novel

 

アイルランド人作家ライアンによる新作。

ファルークには妻と娘がいる。シリア内戦で国が弱体化していく中で、ファルークは2人を守ろうとする。シリアに残れば自由を失うことになる。国外へ逃げればふるさとを失い、容赦なく波が押し寄せる海の向こうの国で暮らすことになる。

ランピーはアイルランドの小さな町で途方に暮れている。クロエと別れてからというもの、何にも身が入らないのだ。それでもバス運転手として、町の老人たちを色々な場所へ送り届けている。

ジョンは亡くなった父親や兄のことを思い出しながら暮らしている。

3人の男性が、それぞれ「家」・「ふるさと」と呼べる場所を探す物語。

  

所感

残念ながら、ジュリアン・バーンズのThe Only Storyは入りませんでしたね。確かに受賞作を見ていると、ディストピア小説がかなり目立ち、情勢に沿った作品が選ばれている印象。

ブッカー賞ノミネートが2回目もしくはそれ以上なのは、オンダーチェとライアンのみで、比較的新しい作家が名前を連ねている。

これから読みたいなと思っているのは、Milkman、Washington Black、The Water Cureかな。グラフィックノベルのSabrinaもぜひ読んでみたい。

9月のショート・リスト発表も楽しみ!

 

www.tokyobookgirl.com

www.tokyobookgirl.com

www.tokyobookgirl.com

 

保存保存保存保存保存保存保存保存保存保存保存保存保存保存保存保存保存保存保存保存

保存保存

保存保存

保存保存