トーキョーブックガール

世界文学・翻訳文学(海外文学)や洋書レビューを中心に、好きなことをゆるゆると書いているブログです。

The Beauty Myth / Naomi Wolf: 美の神話とは

 こんにちは! すっかり日常に戻りましたが、先週までの夏休みのことを思い出してぼんやりしているトーキョーブックガールです。

 どうでもいい話なのですけれど、、、旅行先のホテルの部屋に支配人からのお手紙があって、末尾に「オーム・シャンティ・シャンティ・シャンティ・オーム」とサインしてあったんです(ヒンドゥー教の島だったもので)。それを見た瞬間に私は踊りましたよ! オーム♪シャンティ〜〜〜オーム♪ もう千秋楽を迎えてしまったんですね……ひろきのお兄様のムケーシュ、見足りない!

 

 さてさて、以前、Goodreads*1にてエマ・ワトソン主催のブッククラブOur Shared Shelf*2に参加していると書いた。

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 7-8月のお題本はこちら、ナオミ・ウルフによるThe Beayty Myth

The Beauty Myth (Vintage Feminism Short Edition)

The Beauty Myth (Vintage Feminism Short Edition)

 

 Women's Studies(女性学)を大学で取っていた方は読んだかも? 私は初読。しかし、1990年に出版され世界的ベストセラーとなったというこの本、今読んでも全く古さを感じさせないどころか、ほとんどそのまま2017年の課題として読むことができる内容。

 The Beauty Mythは『美の神話』だが、『美の作り話』というニュアンスもあるかと。副題は"How Images of Beauty are Used Against Women(美のイメージがいかに女性を傷つけているか)"。

 The Beauty Myth、美しくなければという呪いが女性を傷つけている。19世紀から繰り返されるフェミニズム運動は女性をガードルや窮屈な衣装から解放し、男女雇用機会の均等を目指し、女性の地位向上を達成してきた。しかし1990年代、女性は1960-1970年代の女性とは違う意味で、つまり「女性らしさの神話」ではなく「美の神話」によって、制圧されている。「美の神話」は女性に、美しくなければ意味がないという暗示をかけ、多くの女性を自己否定、拒食症、整形へと導いている。この主張を"Work" "Culture" "Sex" "Hunger" "Violence"という5つの章に分け、詳しく説明している。 

 たとえば"Work"では

The situation of women in television simultaneously symbolizes and reinforces the professional beauty qualification in general: Seniority does not mean prestige but erasure - of TV anchors over forty, 97 percent, claims anchorwoman Christine Craft, are male and 'the other 3% are fortyish women who don't look their age.' Older anchorwomen go through 'a real nightmare', she wrote, because soon they won't be 'pretty enough to do the news anymore'. Or if an anchorwoman is 'beautiful', she is 'constantly harassed as the kind of person who had gotten her job solely because of her looks.'

 これはどこの国でも同じである。「仕事はできるけど、あいつは女じゃない」、「仕事はできるけど可愛くないから」。もしくは「可愛いだけで昇進できていいよな」、「あんなに可愛いのに仕事もできるわけない。上司と寝て仕事を取ったんだ」。女性が昇進すると必ずこんなコメントを聞く気がする。美が存在しようがしなかろうが、「美の神話」に彼女をあてはめ、嘲る悪意のコメント。

 私が在籍していた、女性が全従業員の10%未満という米系企業でもそうだったから、日本の企業はどれほどだろうと思う。(意外と日本企業の方がセクハラ対策等しっかりされていて、こういうことはないのかもしれないですが……)「ガラスの天井(glass ceiling)」なんて80年代に流行った言葉だと、働きだすまで私は思っていた。今はそんなものないのだと。しかし、働き始めるとすぐに、2000年代も状況は変わっていないことに気付かされた。

 Craftは更に「もし男性キャスター/アナウンサーに女性と同じ美の基準が設けられるのであれば、現在の出演者は全員クビになる」と発言している。仕事と美のダブルスタンダードを求められ、成功しても失敗しても責められる社会に、女性の未来はあるのだろうか。

 

 "Culture"で興味深かったのは、文化的に女性は'beauty-without-intelligence'と'intelligence-without-beauty'にカテゴライズし、女性は美しさもしくは賢さどちらかのみ、持っている生き物だとされてきたこと。

A common alegory that teaches women this lesson is the pretty-plain pairing: of Leah and Rachel in the Old Testament and Mary and Martha in the New; Helena and Hermia in A Midsummer Night's Dream; Anya and Dunyasha in Chekhov's The Cherry Orchard; Daisy Mae and Sadie Hawkins in Dogpatch; Glinda and the Wicked Witch of the West in Oz; Veronica and Ethel in Riverdale; Ginger and Mary Ann in Gillian's Island; Janet and Chrissie in Three's Company; Mary and Rhoda in The Mary Tyler Moore Show; and so forth. 

 このようにして、女性は「美しくなければ物語は起こらない」と言い聞かされて育つのだ。その一方、女性による作品では「美の神話」が適用されておらず、「意味のある美」が追求されていることも、ウルフは指摘する。過大評価されている美と、過小評価されグラマラスではないものの生き生きとしたヒロインとの対比がそこには見て取れる。

This tradition pits beautiful, vapid Jane Fairfax ('I cannot separate Miss Fairfax from her complexion') against the subtler Emma Woodhouse in Jane Austen's Emma; fruvikiys, blond Rosamond Vincy (''What is the use of being exquisite if you are not seen by the best judges?) against 'nun-like' Dorothea Casaubon in George Eliot's Middlemarch; manipulative, 'remarkably pretty' Isabella Crawford against self-effacing Fanny Price in Austen's Mansfield Park; fashionable, soulless Isabella Thorpe against Catherine Morland, unsure of herself 'where the beauty of her own sex is concenrd', in Austen's Northanger Abbey; narcissistic Ginevra Fanshawe ('How do I look to-night?...I know I am beautiful') against the invisible Lucy Snow ('I saw myself in the glass...I thought little of the wan spectacle') in Charlotte Bronte's Villette; and in Louisa May Alcott's Little Women, vain Amy March, 'a grateful statue', against tomboyish Jo, who sells her 'one beauty', her hair, to help her family. It descends to the present in the novels of Alison Lurie, Fay Weldon, Anita Brookner. Women's writing is full to the point of heartbreak with the injustices done by beauty- its presence as well as its absence.

 オースティンはそういう意味でも革命的な作家だったのだと改めて実感する。ジョージ・エリオット、ルイサ・メイ・アルコットと、男性の名前を用いて(用いざるを得なかった)作品を書いた女性の名前がここにあがっていることも印象的である。

 そして自身をコントロールする唯一の方法として拒食症、過食症になることを選択する女性が"Hunger"で描かれ、辛く痛い思いをするのは当然だという思い込みから"Violence"を受け入れてしまう女性を分析する。肉体的な暴力だけではなく、言葉の暴力も。

 

 10代・20代の女の子にこれだけは伝えたい。

 社会に出ると、「美の神話」にあなたを当てはめようとする人は必ずいる。避けて通れることができればよいのですが、必ずしも可能だとは限らない。強くあること、自身は決して「美の神話」を使って他の女性を陥れないこと、くらいしかできることがない場合もある。

 でも、誰とお付き合いするか、誰と結婚するかは、現代の日本ではあなた自身の選択だ。決してあなたを貶めるような人と一緒にいてはいけない。TLCの"Unpretty(可愛くない)"にはこんな歌詞があった。

You can buy your hair if it won't grow

You can fix your nose if he says so

You can buy all the make up that M.A.C. can make

But if you can't look inside you

Find out who am I too

Be in the position to make me feel so 

Damn unpretty


Unpretty (Lyrics) - TLC

 この歌は名曲だが、そんな気分にさせる恋人と一緒にいては絶対にいけない。「もう少し痩せたら可愛いのに」、「あなたは役立たずだから社会に出る必要はない」、「顔だけで採用されたんだろ」、そんなことを言う男性(もしくは女性)と時間を過ごすことは、あなたの自信や自分に対する愛情を蝕む。長期的に必ずあなたの健康に影響を及ぼす。

 もしかして、あなたにそう言い続けている両親がいるかもしれない。あなたは両親を選ぶことはできない。でも、恋人や配偶者はあなたが選ぶのです。

 

 あとがきには、「最近では美の神話は男性にも影響を及ぼしつつある。引き締まった体でないと、素敵な顔でないと、成功者ではないという風潮がある。美の神話を用いて金儲けに成功した業界は、この法則が女性のみならず男性にも有効だと気付いたのだ」とあるが、まさにその通り。すべて今は男性にも同様に当てはまる内容だと思う。

  

 日本語版も見つけましたが、絶版になっているようだ。発売からは20年以上経っているのだが、内容は決して古くないので、是非再出版していただきたいものです。

美の陰謀―女たちの見えない敵

美の陰謀―女たちの見えない敵

 

 

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*1:Goodreadsはアメリカのブクログ、読書メーターのようなサイトです。マーガレット・アトウッドやスティーブン・キング、ミランダ・ジュライといった作家も販促に利用しているので、アップデートや作家の読書情報もチェックすることができ、お得感があります。Amazonが買収済み

*2:Our Shared ShelfはGoodreadsのアカウントを取得した人であれば誰でも参加出来る、オンライン・ブッククラブです。2ヶ月に1回、フェミニズム関連の本をエマがピックアップしてくれます。気になる方は、ぜひご参加を!

www.goodreads.com