トーキョーブックガール

世界文学・翻訳文学(海外文学)や洋書レビューを中心に、好きなことをゆるゆると書いているブログです。

『燃える平原』 フアン・ルルフォ

[El Llano en Llamas] とても久しぶりに『燃える平原』を再読した。日本語で読むのは初めて。 絶版になっている水声社の単行本を買おうかなどうしようかな、と考えていた時に岩波文庫として出版されるというニュースを聞いたので5月まで楽しみに待っていたの…

2018年のブッカー国際賞はオルガ・トカルチュクの『逃亡派』

イギリスの5月22日、日本時間の昨夜発表になったブッカー国際賞。 受賞したのはオルガ・トカルチュクの『逃亡派』。翻訳者はジェニファー・クロフト(Jennifer Croft)。ポーランド人作家として初めての受賞となる。 ノミネート作品の中では唯一邦訳が出版済…

Penguin Booksの新しいシリーズPenguin Modernが可愛い

先日久しぶりに神保町パトロールをして、仕上げの三省堂で見つけたPenguin Booksの新シリーズ(2018年発売)。 文庫サイズの可愛いPenguin Modernです。薄い青緑のカバーも美しくて思わずジャケ買い。シールもしくはブックマークのおまけつき。 三省堂には10…

『語るボルヘス』 ホルヘ・ルイス・ボルヘス

[Borges, Oral] 『ボルヘス、オラル』が昨年岩波で文庫化されていた。 1978年の5月から6月にかけて、ブエノスアイレスのベルグラーノ大学(Universidad de Belgrano)にて行われた5回にわたる講演記録である。 語るボルヘス――書物・不死性・時間ほか (岩波文…

『継母礼讃』 マリオ・バルガス=リョサ

[Elogio de la Madrastra] マリオ・バルガス=リョサの作品は大きく2つに分けられる。私は心の中でこっそり「社会派リョサ」、「エロリョサ」と呼び分けている。 社会派リョサは『都会と犬ども』、『緑の家』、『密林の語り部』などノーベル文学賞が「権力構…

ボリス・パステルナークの『ドクトル・ジバゴ / Doctor Zhivago』が宝塚にぴったりな理由

[Доктор Живаго] I also think that Russia is destined to become the first realm of socialism since the existence of the world. When that happens, it will stun us for a long time, and, coming to our senses, we will no longer get back the mem…

『蜘蛛女のキス』 マヌエル・プイグ

[El Beso de la Mujer Arana] 人が見た映画や、読んだ小説の話を聞くのが大好きである。 人の記憶の中の映画や小説はとんでもなく面白く感じられる。その後話題に上がった映画を見たり小説を読んだりしても、話を聞いている時ほど面白く感じない。その人の主…

Anything is Possible / エリザベス・ストラウト

[何があってもおかしくない] 発売日: 2017年5月4日 ペーパーバック版の発売を待って読み始めたエリザベス・ストラウトの最新作。 むさぼるように読んでしまった。 舞台は前作『私の名前はルーシー・バートン』の主人公ルーシー・バートンの故郷、イリノイ…

『ペドロ・パラモ』 フアン・ルルフォ

[Pedro Páramo] ラテンアメリカ文学の「はじまり」 「もう一度読み返したくなる」、「必ず二回読みたくなる」と銘打たれて書店に並んでいる本のほとんどは(わりとバレバレな)叙述トリックを用いたミステリー小説である。 そういう説明文をつけていい小説は…

『エレンディラ』 ガブリエル・ガルシア=マルケス

[Eréndira] 私にとって初めてのガルシア=マルケスは『百年の孤独』で、その1冊で「ガルシア=マルケスの沼」に真っ逆さまに落ちていってしまったのだけれど、もしこれからガルシア=マルケスを読む友人がいるとすれば『エレンディラ』を最初に読むように薦…

『アウラ・純な魂』 カルロス・フエンテス

[Aura y otros cuentos] 「これ、知っている」というのが、フエンテスを初めて読んだ時の感想だった。ちなみに初めて読んだのはラテンアメリカ文学の授業で、「女王人形」と「純な魂」だったと思う。 フエンテス短篇集 アウラ・純な魂 他四篇 (岩波文庫) 作…

『すべての火は火』 フリオ・コルタサル

[Todos los Fuegos el Fuego] 『すべての火は火』を初めて知ったのは、ティーンエイジャーだった頃。国語(Literature)の先生とコロンビア出身の友人と話しているときに「今読んでいる本」の話になって、友人が「All Fires the Fireというコルタサルの本を…

エマ・ワトソンのブッククラブ「お題本」リスト【最終更新 2021-01-06】

何度か書いた、エマ・ワトソン主催のフェミニストブッククラブ"Our Shared Shelf*1"。Goodreads上のバーチャルブッククラブで、誰でも参加可能である。 お題本は現在は2ヶ月に1冊発表されており、全て「女性」や「平等」をテーマにした面白いものばかりなの…

Red Clocks / Leni Zumas: フェミニストSF小説の勢いが止まらない

発売日: 2018年1月16日(レニ・ズーマス) アメリカ・オレゴン州を舞台としたフェミニスト・ディストピア小説である。本小説におけるアメリカでは、"Personhood Amendment"が施行されている。これはいわゆる「中絶禁止法」で、受精卵にも生きる権利があると…